ずるやすみ

倉田タカシ
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 この土地は、ずると呼ばれる状態になることがあります。そうなるともう何をやってもだめですので、一斉にお休みにするんです。それがずるやすみです。ほかの土地でずるというのがどういう意味かは知りませんが、ここではそういうことになっています。

 ずるというのがどういう状態なのか、ほかの土地のかたに説明するのは簡単ではありません。わたしはその説明のために今ここにおりますが、理解していただけることはごく稀です。そうです、ほかに誰も人の姿がみつからないのは、いまがずるだからです。お休みですから人はだれも外に出ません。わたしは、土地の人たちがお金を出しあって作った、人のようにふるまうことができる物体です。

 ほかの土地のかたには、ずるの影響はまったくないか、ごくわずかです。ごく稀に昏倒するかたもおられます。ずるがどういう状態であるかを理解できたごく少数の人がそうなります。

 ずるという状態のとき、じつはこの土地だけでなく地球全体がずるなのかもしれないという人もいます。もしそうであるなら、世界中がお休みする必要があります。お休みにしないことが、この土地以外に暮らす人々にとても深刻な影響をおよぼしているかもしれません。

 あなたがバスでここに到着したときには、まだずるではありませんでした。いまはずるですから、バスも運行しなくなっています。日が暮れてからがずるの本番であるとよくいわれます。これも、ほかの土地のかたに説明するのはとても難しいのですが。

 日没まではまだ時間がありますし、ずるについてきちんとご説明するには時間がかかりますから、ベンチに座って楽な姿勢でおききください。説明を長くきいていただくほど、理解いただける可能性も高まることがわかっています。