「一橋大のおにぎり」
「一橋大の学祭で毎年売ってる名物とか、そういうこと?」
「いや、そうじゃなくて、『バレーボール大のおにぎり』みたいな感じで、大学の名前が、サイズの例えとして使える状況ってないかなと思って」
「まず、バレーボール大のおにぎりは、地球との関係においてロシュの限界を超えるのでは?」
「自重で崩壊するだけで、ロシュ関係ないのでは?」
「そもそも、いきなり本題を見失うような実在性に乏しい例を出さないでほしい」
「話をもどすと、一橋くらいの大きさ、といえるような『一橋』なるものの存在を模索したい」
「獣とかだったらわかりやすいよね」
「ひとつばし」
「ひとさらい的な」
「ひとをつばす獣」
「つばす」
「夜中に、繁華街の裏路地からちょろっと出てきて、酔客をつばす」
「けっこう小さいってことかな。それならおにぎりのサイズの例えに使うのにも不自然ではない」
「ただ、長い……」
「おおむね丸くないとダメじゃないの? 蛇くらいのといったら細長いオブジェクトの形容にしか使えないでしょ」
「先端が丸かったらどうですか」
「その場合は、ひとつばしの頭だかなんだかの大きさ、という言い方になるから、ちょっと遠いのでは」
「その丸い部分しか印象にのこらないくらい、丸いところが相対的にでかい」
「じゃあ、長いところは尻尾?」
「いや、生物としての内部構造からすると長いところが胴体で、丸いところがむしろ尾」
「裏路地からとびだすドゥーガル・ディクソン的な生物……で、『つばす』って何?」
「え、そこわからない?」
「そこを説明してくれないと全体像が見えない」
「つばされたことない?」
「つばされることって現実にあるの?」
「なくはないよ」
「誰かがつばされるとニュース記事とかになる?」
「ならないと思う」
「首相とかでも?」
「首相の場合は、つばされた瞬間にその人物が首相であるという事実がこの世界線から抹消されるから、むしろならない」
「予想していたよりも結果がおそろしい」
「で、まあ、そういう『ひとつばし』という獣が存在するならば、『一橋大のおにぎり』という表現が成立するのでは」
「でも、そういう漢字表記になるの? 人をつばす獣なのに?」
「それはまあ、当て字で」
「あと、大学のほうの一橋大はどうなるの」
「もちろん、ひとつばしにちなんで命名された」
「『かまいたち大学』みたいなことになるの?」
「そう、かま大と同じ」
「かま大は存在しないよ」
「かま大ってちょっとかま犬っぽいよね。かませ犬の略」
「集中力なくなってきた?」