豆腐充填者

倉田タカシ
·

 豆腐は充填されることを嫌います。

 わたしたちは豆腐を充填しないと帰れません。ですから、職場にはつねに、きわめて敵対的なムードが存在します。

 さらに、逆に充填されることをとても好み、すすんで充填されようとする流動的な存在がしばしば職場に侵入しますので、作業は難航します。この流動的な存在は、非常に流動的なので、どのような存在であるかの説明もなかなか困難です。店頭に並ぶ充填豆腐のおよそ97パーセントについては、実際には豆腐ではなくこの流動的な存在が充填されたものです。本来の豆腐との違いは人間の知覚では感じ取れませんので、法的にもそれでよいことになっています。ただ、充填に携わる者としては看過しがたく、非常に残念な思いです。繰り返しますが法的には問題ありません。

 充填豆腐のほうが長持ちするし(ここでいう長持ちとは、消費期限ののち何日目くらいまでは違和感をおぼえずに食べられるかというエクストリームな消費意識にのっとった概念です)、ずっと充填豆腐ばかり買うようになりました。おとうふやさんの店内でプールにぷかぷかしてるのを買う暮らしをしてみたいな……夕暮れどき、自転車でカーゴを牽引するおとうふやさんの笛をきいて、鍋を片手にサンダルつっかけて玄関から駆け出してみたい。おとうふやさん! きょうのおとうふはどんな……どんな遺伝子加工をほどこした豆を加工なさって?

 ベトナムのサテ・トムという甘くて辛い(かなり辛い)調味料をのせて食べるのが気に入っているのですが、サテ・トムが完全にひややっこ専用調味料になってしまって、それはそれで広がりがなくてもったいないようで、いろいろ開拓してみたいと思っているところです。

冷奴の写真、砕いたピーナッツとサテ・トムをのせたもの

 この写真の豆腐は充填豆腐ではないです(貼ってから気づいた)

@deadpop
うろおぼえでいろいろ書きます twitter : @deadpop