うし焼きいも

倉田タカシ
·

 近くでご覧になって、聞きまちがいでなかったことをご納得いただけたかと思います。そうです、わたくし牛が、芋を焼いて販売しております。おひとついかがでしょうか。おいしいですよ。……この軽トラックですか。もちろんわたくしが運転しております。免許は大丈夫です。ご説明すると長くなるので省きますが、大丈夫です。おひとついかがですか。遠赤外線でホクホクですよ。……芋を焼くための燃料ですか。これもご説明すると長くなってしまうので、キーワードだけお話ししますと、再利用、乾燥、ですね。はい、再利用です。芋の種類もたくさん取り揃えてございます。ご覧になりますか。気が進みませんか。芋ですよ。おいしいですよ。この蓋をとると、ほら……いかがでしょうか。烈しく赤外線を発しているのがおわかりいただけるかと思います。食べるときにはやけどに気をつけてくださいね。……にんべん、ですか。牛に、にんべんがついているのではないか、と。すばらしい観察力でいらっしゃいます。いかにもわたくし、よく見ればお気づきになったとおり、牛の体に人の頭をつけた、牛のなかではやや少数派に属する仲間の、件でございます。ええ、世のかたが思うほど数が少なくはないんですよ。どの牧場にも20頭はいます。頭と体が逆だったら、もうすこし車の運転もしやすかっただろうにと思うことはありますね。わたくしが件だと言い当ててくださったお客様には、未来をお教えするサービスをご提供しておりますので、ぜひお聞きになってください。いえ、芋をお買い上げにならなくても大丈夫です。辞退なさるかたもいらっしゃいますけど、ぜひ聞いていただければと思います。じつは、件の予言というものは、牛の乳とおなじで、出さずにためこんでしまうと具合が悪くなってしまうんです。乳腺炎と似たように、炎症になってしまうこともあります。この場合は、脳ですが。件が脳に炎症をおこしてしまうと、あまりくわしくはお話しできませんが、とても困ったことになりますので、ぜひひとつ予言を聞いていただけたら……明日のことをお聞きになりたいですか。それではちょっと、予言というより天気予報のようになってしまいますから、この先の生涯における核心をつくような、シンプルでありながら奥深い、曖昧模糊としてとらえどころのない言葉の集まりとしか思えなかったのがいざその時になってみると一字一句そのとおりであったとわかるような、そういったものこそ予言と呼ぶにふさわしいと信じておりますので、ぜひそういうちゃんとした予言を聞いていただければと思います。ちょっと集中しますので、そのあいだこの芋を食べながらお待ちいただけますか。これは試食用のものですからお代はけっこうです。……いかがですか。ホクホクで美味しいでしょう。ひとくち食べればとりこになってしまう美味しさではないでしょうか。もっと召し上がりたいですか。お買い上げに……? ありがとうございます。ずっと食べ続けていたくなる味だとみなさんおっしゃいます。それではちょっと精神集中させていただいて……あっ……

 五次元と申し上げてピンときますでしょうか。どうやら五次元から来るようですね。これはもうお客様個人の未来ではなくて、この地球全体の未来の予言になってしまいますけれども、ええ、大状況はすべての人を巻き込むものですから……いまちょうどわたくしがここでご説明しているあいだにメタ時間線がひとつ横にずれて、そういう未来がやってくることになったようなんです。五次元から来ますから、あ、芋をもっと召し上がりたいですか。ありがとうございます。冷めてもおいしいですよ。もうすこし召し上がると、眠りがおとずれます。すべてを忘却にみちびく深い眠りです。予言は紙に詳しく書いてポケットにお入れしておきますので、ご心配いりません。はい、各種電子マネーに対応してますので大丈夫ですよ。ここにかざしていただいて……