「埴谷(はにや)先生なんですよ」
「あー、はいはい」
「あだ名がはんにゃ先生」
「かわいいっていうか、こわいっていうか」
「やさしい先生ですよ。で、ほかに、ハンナ先生がいるんですよ。つづりがH-A-N-N-A」
「はい」
「で、このハンナ先生も、いろいろな変遷のすえにあだ名が『はんにゃ先生』になって」
「えー」
「あだ名の収斂進化ですね」
「収斂進化?? ……それ、困らないんですか」
「職場の人たちはちゃんと区別できるみたいなんですよ。なにか、微妙な発音の違いでもあるのか……部外者にはぜんぜんわからないんですけど」
「へえ……」
「で、こないだ、新人で入屋(はいりや)先生という人が入ってきて、その人もあだ名が『はんにゃ先生』で定着しそうなんですよ」
「ええっ……」
「それもちゃんと区別できてるみたいで、職場では」
「あだ名としてちょっと遠いし、なにか、般若の呪いみたいなのがその職場にあるんじゃないですか……」
「そんなオカルトみたいな(笑)」
「なにか般若に関係したものがあったりしないですか」
「とくにないと思いますけど……あ、まあ、講堂の壁に大きな般若のお面がかけてあったりはしますけどね。高さ3メートルくらいの」
「こわい。こわすぎる」
「まあ、とくに関係ないんじゃないですかね。そんなオカルトみたいなことはないですよ」
「ここでこうして話しているだけで、般若の影響圏に捕らわれてしまっているのでは……」
「10キロくらい離れてるからたぶん大丈夫ですよ。いや、そもそもそんなオカルトみたいなことはないですしね」
「あそこって中学校でしたっけ。それとも小学校?」
「いやー……わかんないですね。学校だったかなあ……」
「もうほんと無理」