忘年体とよばれる体(たい)が中空に浮かんでおり、その年のいろんなことを忘れさせてくれるわけですけど、人間から記憶をただ抜いてしまうと頭がへこむので、かわりの記憶をギュッギュッと、手際よく詰めてくれる。何十年も年の瀬にくりかえしてきた作業の確かさ、何十年もくりかえしてきただけにちょっと雑にもなってる感じ、それがこのギュッギュッから伝わってくる。今年は……いいことも悪いこともありました。いいことは、強風の日が例年より少なかったことですね。毎年ベランダにプランターを並べて家庭菜園をやっているのですが、土地の性質なのか、いつも強風に悩まされます。枝が折れてしまうので、天気予報の風力風向きをいつもチェックして、強風が予測される日には早めに室内にプランターを避難させる、というのを毎年ひんぱんにやっているのですが、今年はほんの2、3回で済みました。枝が折れなかったかというとじつは今年も折れて、それはピーマンでしたが、強風に気づかず外に出していたときに折れてしまい、痛恨でした。つまり、本当はあと1回は室内避難が必要であったということですね。今年は避難をさぼり気味だったということなのではないでしょうか。ミニトマト、なす、ピーマン、パプリカ(赤と黄の2株)、モロヘイヤ、バジルなどなどを今年は育てましたが、当然ながら育てば育つほど運びにくくなり、とくにミニトマトは人間ひとりより大きいくらいの空間を占めるようになるので今年はついに避難はあきらめて、強風のときも放っておきました。風をうけて支柱ごと斜めになり、となりのナスへなだれてひとかたまりのもつれた大きな茂みに成長し、実に手が届かなくて収穫に苦労しました。反対側から採れたらいいのですが、反対側とはすなわちベランダの柵の外の空間であり、わたしたちが物理的現実に暮らしていることをあらためて思い出させられました。そして、じつは避難の作業で枝が折れたりもしました。悲しかった。ピーマン類は寒くなっても実をつけてくれるたのもしい作物なのですが(あくまでもうちのベランダでの経験の範囲での話ですが)、秋を越えると枝が弱ってきて、ふしぶしで簡単に折れるようになってしまうのです。室内へ運ぶときに、ちょっとサッシの枠にひっかけただけであっけなくもろりと折れてしまって、まだ緑の大きな実をいくつもつけたパプリカの枝が、どすんと落ちる。悲しい。実だけを回収して炒め物やスープに入れたりして食べました。味はほぼピーマンですが、やや酸味が強めかもしれません。パプリカは、妻の希望で今年はじめて作りましたが、ピーマンとおなじように丈夫で、大きくておいしい実をたくさんつけてくれて、これは本当に育ててよかったと思いました。ここまで書いたぶんは詰めてもらったかわりの記憶ではありませんので、事実として受け取っていただいて大丈夫です。まぎらわしくてすみません。プランター菜園については書きたいことがたくさんあるのでまたべつの記事をつくろうと思います。