[以下、ボイスチャット]
「あの、だれかが死んで、化けてでてきたとするでしょ」
「うん」
「でも、自分は幽霊じゃなくて生霊だ、死んでない、って言い張るの。いま一時的に幽体離脱してるだけで、本体はちゃんと生きてる、と」
「そう言い張ることになにかメリットがあるってことなのかな?」
「そう、メリットはいろいろある……いろんな法的なアレをアレできるとか……。で、その場にいるほかの人たちは生死についての情報を持ってなくて、どっちかわからない。姿も、ただ半透明になって出てきてるだけで、すごい怪我をしてるとか、どう見ても死後だとわかるような姿じゃないから、判断のしようがない」
「うん」
「そういうときに、幽霊と生霊のどちらなのかを判定できる質問があったら面白いなと思ったんだよね」
「相手が質問になんと答えるかで判別できるってことね」
「そうそう」
「さむくない? みたいな」
「それ、生霊はなんて答えるの」
「さむいって何のこと……あっさむい! さむいよ!」
「途中で気がついて取り繕う」
「生霊のほうは、わりと気温に敏感だからね」
「そこまで自信満々にいうと、まるで生霊になったことがあるかのような……」
「え、もうこれで正解?」
「試してみないと正解はわからないんだよね」
「試すのも答え合わせするのも怖いね、というかシャレにならないね」
「まって、出た」
「え?」
「いま自分の目の前に、半透明の鹿場根さんがいる」
「よみ書房の店長の鹿場根さん?」
「そう。なんかこちらに本を渡そうとしてる」
「聞いてみて! 聞いてみて!」
「鹿場根さん、寒くないですか?」
(暑いよ、夏だから)
「あっ、そうですね、暑いですよね」
「判定して!」
(霊じゃないよ、あなたが熱中症になりかけて幻覚を見てるんだよ)
「あっあっ……救急車よんで!」
「え、鹿場根さんがやばいの?」
「そうじゃないんだ……鹿場根さんなんて人は実在しないんだよ!」
(いや、実在はするよ。これは幻覚だけど)
「誰がやばいのかわかってきた……救急車よぶよ!」
ピーポー ピーポー
(あぶないとこだったね)
「救急車の車内でも幻覚を見続けている……もうダメなのでは……」
(これ読むといいよ)
「手渡された半透明のこれは、実在する本なんですか」
(実在はしないよ)
ピーポー ピーポー
(まだまだ暑いからほんとに油断しちゃダメだよ)
「はい」