去年の共著(高山羽根子さん・酉島伝法さんとの『ゆきあってしあさって』)に続いて今年はどうにか単著を出すことができ、とてもありがたい年でした。前半は去年につづいて複数案件の並行で忙しく、後半はひとつの作品をかかえてずっと呻吟しておりました(まだしています)。実質的なデビューから10年、いまも発表の場をいただけていることを感謝するばかりです。
書籍:短編集『あなたは月面に倒れている』(東京創元社)
デビュー以来の短編をようやく一冊にまとめることができました。自分はこういう作家です、といえるショーケース的な作品集になったと思います(これまでに書いた短編がだいたい入ってるので当然といえば当然ですが…)。正統的な作品と逸脱的な作品がだいたい半々の割合で入っています。「週刊文春」12月7日号で朝井リョウさんに「とてもワクワクした一冊」として紹介いただき、「本の雑誌」2024年1月号の鏡明さんによる2023年SFベスト10で6位に選んでいただきました。(→■) (その後、早川書房刊『SFが読みたい! 2024年版』の2023年国内SFランキングで5位をいただきました。ありがとうございます →■)
杉江松恋さんのYoutubeチャンネルでもご紹介いただいています(→■)
書籍:『未来の「奇縁」はヴァースを超えて』(プレジデント社)
WIRED Sci-Fiプロトタイピング研究所の主催で行われた企業とのコラボレーションの成果です。藤井太洋さん、高山羽根子さんと参加しました。この本は、Sci-Fiプロトタイピングとはなにかを語ったパートと、成果物としての短編小説4つ、それから北村みなみさんのマンガが収められています。プロジェクトは去年まるまる一年かけて(月一回のセッションを重ねて)進めてきたもので、とても楽しかったです。参加者のかたが出すアイデアが面白く、かつ、ひとつの未来世界に収められそうだと思えて、短い中にアイデアぎゅう詰めの短編として完成させました。(→■)
短編「あずかりもの」(ウェブ公開)
こちらも別のWIRED Sci-Fiプロトタイピングの成果物です。池澤春菜さん、柞刈湯葉さんと参加しました。小売り・流通を手掛ける企業とのコラボレーションで、「所有」の概念がなくなった近未来の社会で小売り・流通はどう変わるのか、というストーリーを書きました。他人と歯ブラシを共有するというエクストリームなネタで始まるのが気に入っています。(→■)
短編「パッチワークの群島」(すばる8月号)
特集「トランスジェンダーの物語」にご依頼いただきました。執筆陣のなかでもっともマイノリティ性を持たない書き手であることを踏まえた作品になっていると思います。いま(国内でも、世界的にも)トランスジェンダーへの差別はほんとうに深刻で、この作品を書くあいだにもひどい出来事がつづくなか、なんとしても希望のある未来を描くぞと、歯を食いしばるような思いで書きました。(→■)
メール対談:マリアーナ・エンリケス(WIRED 50号)
雑誌WIREDの50周年記念企画の一環として、立ち位置の異なる作家どうしの越境的な対談に参加しました。『寝煙草の危険』『わたしたちが火の中で失くしたもの』の2冊が訳されているアルゼンチンの作家、マリアーナ・エンリケス氏とメールでやりとりしたものです。ホラーとSFの共通点や、作品とテクノロジーのかかわりなどについて、率直で示唆に富む返答をいただきました。対談のほかの座組みは劉慈欣&池澤春菜(→■)、ウォレ・タラビ&藤井太洋(→■)、N・K・ジェミシン&高山羽根子(→■)(以上敬称略)という豪華な面々で、どれも刺激的、かつ、さまざまな隔たりを越えて握手するような感じがあります。(→■)
書籍:『創元SF文庫総解説』
早川書房から『ハヤカワ文庫SF総解説2000』や『ハヤカワ文庫JA総解説1500』が出ていますが、それの創元SF文庫版です。いくつかの項目を担当しました。そのうちのひとつ、「タキオン網突破!」は十代のころ以来の再読でしたが、終盤の重い展開は子供心にも印象深かったことを思い出しました。そして、幡池裕行氏による表紙イラストの宇宙船はいま見てもかっこいいです。(→■)
ITまんが「食べ超」
忘れたころに更新される不定期連載ですが、今年は更新できなかった……。来年はなんとかしたいです。ひさしぶりに読み返して、自分でも、このキャラクターたちにまた会いたいなと、ホームシックのような気持ちに(→■)
今年の秋以降は、小説すばる掲載の連作中編「タフな狩り」の第4章を延々と書き続けています。起承転結の結にあたる最終章です。ようやく完結させられそうです。第1章に手を付けてからどえらい時間が経過しました。こんなはずではなかった。ちなみに、第1章:2021年1月号、第2章:2022年2月号、第3章:2022年10月号掲載です。ほんとにすいません。
個人のレベルではなかなかよい年だったものの、世界をみると、ここ数十年でこんなにひどい年があっただろうかと思います。ウクライナ、パレスチナ、スーダン、決して終わったわけではないパンデミック、悪化する一方のマイノリティ差別。希望を手放さず、やれることを(可能なら、やれることより少し大きめのことを)やっていきたいです。