「なんでも願いを叶えてやろう」
「えっ、そんな、個人の軽はずみな要求にこたえて現実を操作できるような存在であることをやめてほしい……怖すぎるしキモすぎる」
「いきなり、わたしに死ねというも同然の要求をしますか」
「じゃあ、死なない程度でいいから存在をやめてほしい」
「横暴すぎる……わたしが期待していた我欲と策略のゲームとはかけ離れていて大いに困惑をおぼえる……」
「いますぐ記憶を消して帰ってほしいけれど、記憶を消すなどという侵襲行為はまじでやめてほしい」
「そういうジレンマを抱えつつ、欲望との綱引きをしていただけると助かるのだが」
「いや、もう原状復帰はしなくていいから帰ってください」
「現実を操作するといっても、実際には、巨大な財力をもちいて、物理法則に逆らわない範囲で現状変更を行うだけだから、あなたの世界像はそれほど揺らがないのではないだろうか」
「それはそれでキモすぎる……」
「いまのはあなたを安心させるための嘘だったが、安心していないようなので取り下げます」
「ほんとに帰ってください」
「ちょっと種明かしをすると、実際にはとても小さい範囲でしか現実を操作できないのだけれど、さまざまなレベルの詐術を駆使してでっかいことをやっているように見せかけつつ、事態が裏目に出たのは願った者の利己心のせいだよね、という結論へもっていくというゲームだから、そんなに現実改変の危険を心配しなくても……」
「説明はもういいから、台所のテーブルに、あした食べるパンでも置いて帰って……いや、そういうのにもなんか皮肉などんでん返しを仕込んできそうでキモいな」
「だんだんこれはこれで面白くなってきた」
「面白くならないで、さっさと帰って」
「まあそういわず、もう少し……」
「いや、そもそも、なにもせず帰ってほしいというのが願いなのに、なんでそれには応じないの?」
「それではゲーム性に欠けるから、なにもせず帰れというのは願いに含めないようになっています」
「そうだ(やにわに窓辺へ駆け寄り、遮光カーテンを引き開ける)」
「うわーっ(朝日をあびて消滅)」
「なるほど、そのような妖怪であったのだな」