気づけば赤信号を渡りきっている。自転車で一年に一度宙を舞う。ホームと電車の間に落ち、ナップザックがホームに引っかかっていなければ線路に尻もちをついていた。
生来そのようにぼーっとしているので、車の免許は取らない。人には向き不向きがある。
でもバイクに乗るのは好きだ。友達が運転するバイク。ヘルメットは借りる。手袋も借りる。走ると冷えるからと上着も貸してくれる。細やかな心遣いを自身の優しさと思ってもみないのが友達のクールなところで、私はそれを勝手に優しさと受け取る。
脚でバイクをしっかり挟み、友達の胴に腕を回して指まで組む。友達の住む町を、バイクは走る。どこを通るかわからないまま景色を見る。曲がる時にバイクは傾き、一瞬、自分の体が怖がるのをすっとなだめて一緒に傾く。バイクと友達と自分が、ひとかたまりの生き物であるように。
駐車場の入り口で友達はバイクを止め、降りるように言う。バイクから離れ、すぽんとヘルメットを外す。駐車場の隅に停まってエンジンの切られたバイクに近寄って、ヘルメットと手袋と上着を返す。自分には御しきれない大きな生き物として、友達の気遣いごと、バイクを好きでいる。