トラ

永田聡
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先月、古い友人から誘われちょっとした演奏会のトラを引き受けた。結婚して子供が生まれてからは完全に市民吹奏楽団からは手を引いた生活にシフトしており、ここ十年ほどはほぼ金管アンサンブルの活動オンリーだった身としては、久しぶりにバンドで吹いてみたくなって、一も二もなく引き受けた。

田舎で音楽やってる人の常で、あちこちでトラを引き受けるからそのうちお互いが顔を覚えてしまって、名前は知らなくても「ああ、フルートの人」とか「ああ、クラリネットの人」みたいな感じで会えば会釈をするような関係の人が、十年ぶりに訪れたバンドにもやっぱり呼ばれてて、「いやお互い老けたねぇ」みたいな会話を、視線で、交わす。「でもお互いまだ吹いてるんですね、今回も頑張りましょうね」って。言葉抜きで。

前述の友人はじめ古参メンバーとは、「よう久しぶり」「元気か」「お前も元気か」みたいなやりとりを、こちらも言葉に出さずに目で交わす。

そういう関係がまたちょっと心地よくて楽しくて、やっぱり音楽やっててよかったなぁって思う。

でも現実は厳しくて、規模が小さいとはいえやっぱりバンドの下支えをするのってたいへんで、チューバ1本しかも55歳の体力は激しく消耗したことですのよ。十年の時の流れは残酷ね。ごっそり体力持っていかれてた。若いつもりでいても身体は正直でござった。

まぁでも、楽しかった。うん、久しぶりに思いっきり音を出したし、指揮に合わせて吹いた(金管アンサンブルは通常指揮者はいない)し、すごくすごく楽しかった。

欲をいえば、「あ、チューバはあの人か。ヨシ磐石」って思ってもらえるタイプのトラであれたら嬉しいなぁ。うん、基礎練しよ。

※トラ=エキストラ。お手伝い奏者。

@donburioyaji
本名ではありません。1968年生まれ、素人チューバ吹き。 脳内整理のための書き散らし用にちょうどいいかなって思って登録したものの、飽きやすいので何も書かずに放置する可能性大です。