どうして本を作るのかをめぐる整理と意思表明

Dr.ギャップ
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公開:2025/3/21

【大募集】プライド月間連載まとめ本への「こんなの読みたい」リクエスト の記事をまとめながら、自分がどうして本を作ろうとしているのかをもう少し詳しく整理した方が良いんじゃないかと思ったのでこの文章を書きました。でも募集記事で長く語っても目が滑るかなと思ったので別記事で。

2024年に自分がクワロマンティック・アロマンティック・アセクシュアルであることをめぐる連載を始めたきっかけとして「ある」があり、そして続けるなかで「いるよ」がキーワードになっていきました。

「ある」の宛先としてイメージしていたのは、たとえばクワロマンティック・アロマンティック・アセクシュアルといった言葉を知ったばかりのかつての自分のような誰かでした。言葉を知ったはいいものの、手元にはそれを知るきっかけになった短い解説文しかなくて、あるいはまた聞きのぼんやりした情報しかなくて、図書館で本を探しても見つからない。そういう誰かに差し出せる、あるいはたどり着いてもらえる何かが「ある」状態を作りたいと思っていました。自分に何が書けるだろうとも思ったけれど、ひとまず検索結果が0件でがっかりすることだけでも減らせたらいいなと。

そうして記事を書いて連載していくなかで、目指すイメージは記事が「ある」ことから、自分自身が「いるよ」と誰かへ手を振るものへ変わっていきました。

連載を始める前に読者としてぼんやり想像していたのは、上に書いた通り「自分のような誰か」でした。見知らぬ、でも恋愛や性愛について自分と似た傾向や境遇にいる誰か。でも、蓋を開ければ、まずこの文章を読んで、反応をくれたのは自分の周りにいる人たちでした。そうして反応を受け取って思ったのは、文章は確かにそこにあるけれど、それを書いているのは自分で、自分がしたいのは「自分みたいな誰かがいるよ」といろんな人に知ってもらうことでもあるんだということでした。もちろんその「いろんな」のなかには、自分のような誰かもいます。

文章をそこに置いて「ある」を作るだけじゃなくて、もっと自分が、自分から、いろんな人に「いるよ」と手を振りたい気持ちが出てきました。自分に似ている誰かだけじゃなくて、ちっとも似ていない誰か、恋愛や性愛がピンとこない誰かがいるなんて想像するきっかけがなかったような誰か、あるいはもしかしたらどこかは似ているけれどどこかは似ていない誰かにも、「いるよ」と手を振りたいなと。

あとは川野芽生さんの連載「A is for Asexual」を読んで、アセクシュアル・アロマンティック・クワロマンティックでない人にも川野さんの文章を読んでほしい、そういう人こそ読むべきだと思ったのもきっかけの一つかもしれないです。だって、クワロマンティック・アロマンティック・アセクシュアルのわたしたちと、そうでないあなたたちという違いがあるとしても、「恋愛・性愛」はそれぞれに別のものとして所有しているわけではなく、同じ社会のなかで共有されているしそうならざるを得ないのだから、これはわたしたちの話だけでなくあなたたちの話でもある──と、そういうことを強く思ったので。

だから、クワロマンティック・アロマンティック・アセクシュアルといった言葉を知らなかったり、関心がない人にも「いるよ」と手を振りたいのです。「いるんだから無視するな」じゃなくて、それ以前にそもそもそういう誰かについて知るタイミングがなかった人にも「いるよ」「お見知りおきを」と声をかけたい。そういう風に思っています。

で、それをweb連載ではなく本でもやりたいというのは我がままといえば我がままです。いつか図書館でちっとも本を見つけられなかったあの日を今さらでもひっくり返したいこと。web記事では届かなくても本でなら届く誰かもいるだろうと、本好きだからそんな風に思ってしまうこと。そんな感じの我がままですが、おつきあいくだされば嬉しいです。

という感じで、連載にしろ本づくりにしろ、自分の場合は「ある」とか「いるよ」をやりたいというのがまずあって、その中身については「何が適当なのか」「自分に何が書けるのか」と悩みながらなんとかかんとかやっているというのが正直なところです。正直ついでにもう一つ言えば、読者としての自分も「ある」状況である程度満足してしまうので「これが読みたい」みたいなものがあまりなく、それで余計に手探りになっているところがあります。

この記事を読んでくださっているということは、きっと自分の連載や本づくりに少なからず興味を持ってくださっているということだと思います。「ある」と「いるよ」の本にどんな文章があったら嬉しいか、周りの人にも勧めたくなるか、ぜひ知恵とアイディアをお貸しいただけたら大変心強く嬉しいです。

@dr_gaap
短歌と読書と二次創作と旅行と美味しいものが好き。いま一番ハマっているのはアプリゲーム《ディズニー ツイステッドワンダーランド》です。短歌で楽しいことをするのも好き。クワロマンティックでアロマンティックでアセクシュアルです。 感想などいただけたら嬉しいです。→wavebox.me/wave/94ufrrxytf5hliop