夢中が恐い

not in the mood
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 突然SHINeeにハマった。16年目のベテランで、王様みたいなグループだ。時間が少しでもできさえすればYoutubeを見ていて、ずっとキーくん(SHINeeで一番好きなメンバー)のことばかり考えては、かわいい……かっこいい………と悶えている。こんなに猛スピードで何かに転がり落ちるのはそれこそTXTを好きになりたての時以来だった。あの頃みたいに何かに夢中になることなんかもうないと思っていた。そもそもアイドルの、生身の人間のオタクをきっぱりやめようとしていたタイミングだったので人生って本当に何が起こるかわからないなと思う。ただ今は夢中になっていく楽しさよりぼんやりとした怖さのほうが勝っている。それはもちろんSHINeeやメンバーに対してではない。

 スビンを好きになって間もなかった時のことをよく覚えている。ヨントンも。対面イベントも。本当に些細なことがうれしかったのに、好きになればなるほどスビンを応援していることも、何かイベントやコンサートに行けることも、自分にとって何もかもがあたりまえになっていった。わたしはスビンにどんどんいかれたように夢中になった。そういうときは決まって速度制限のないアウトバーンを光の速さで突っ走っている気分だった。しかし愉しさを感じながらも、いつだって同時に自分自身を見失っていく恐怖も確かに感じていた。自分の時間、選択、言葉、すべてがわたしのものではなくスビンのものになっていき、自分自身が消失していく気がした。わたしがSHINeeに夢中になりかけているいま感じているのはその感覚に対する恐怖だった。他者に夢中になればなるほど自分を失って空っぽになっていくような感覚。自分の人生のはずなのに他人の人生を生きているような感覚。

 いつしかわたしは何かに夢中になることに疲れ、アイドルのオタクをやめる決意をした。オタクをしていた自分へのレクイエムのつもりでZINEを作って、文学フリマで売ろうといそいそと動いていた。なのに突然現れたSHINeeのせいでその予定はめちゃくちゃに狂いつつある。今度は、今度こそはうまく夢中になれるだろうか。祈るように思っている。自分を見失うことないまま、夢中になれるだろうか。