
お笑いライブ。それは長年僕の前に立ちはだかっていながらなかなか超えることのできない大きな壁でした。理由は至ってシンプル。「女性が多いから」というただそれだけ。然れども、ただそれだけの理由が非常にネックになり得る、それがお笑いライブというもの。
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一番初めにお笑いってすごいな…と思ったのはバナナマンのコントを見たとき。M-1の漫才も面白いなと思っていたし、笑い飯とかタイムマシーン3号のネタもテレビで観ていてそれはそれは爆笑したものでした。世代で言えばめちゃイケとはねトびはしっかり通っているし、もう少し時を遡ればポンキッキーズで爆チュー問題もやっていたので、その頃には既に今に至る爆笑問題好きという種も巻かれています。爆笑問題にバナナマン…というその並びでオールナイトニッポンよりも完全にJUNK派だったのは言うまでもないでしょう。今でも寝る時にはラジオを付けます。スピーカーの向こう側で繰り広げられる声を聞きながらだと、不思議と落ち着いて眠れます。しかし時折深く聴き過ぎて眠れなくなることもあって、その時はラジオを消すしかないのですが、そうすると上手には眠れないので、つまり結果は変わらないということです。
…と、お笑いとの距離は常にそれなりに近かったけど、感激・感嘆・驚愕・恐怖・悲哀・孤独を感じさせるくらい「お笑いってすごい」と思ったのはバナナマンが初めて。あのふたりのコントを見てから、一言で言えば良いネタを構成するには一種の「インテリジェンス」が必要だということに気付かされました。そこから"芸人"と"ネタ"を見る目が間違いなく変わったと断言できます。どんな芸人さんだろうと、どんなスタイルだろうと、強いのは各々の「インテリジェンス」が発揮されている場合でしかない…これが絶対的な真理なのだと分かると、圧倒的に"笑うこと"の深淵さが浮き彫りになります。
バナナマンの「インテリジェンス」が大爆発している花鳥風月という傑作選ライブシリーズを収めたDVDのボックスがかつてありました。何回観ても笑えて、却って怖かったのですが、あれを同じ職場で働いていた友達に貸してからまだ帰ってきていません。もう帰ってこないだろうと半ば諦めているけれど、今でも返して欲しいと思っています。しかし他方、あのDVDの内容が素晴らし過ぎるせいで返したくないんだよ…と彼女に言われたら間違いなく言い返せない。良いよ良いよ良いよ良いよ良いって持ってて持ってて持ってて大切にしててもう僕はいらないから良いの良いの良いって言ってるでしょ、とこうなることでしょう。
雑に括ると"センス系"ってやつなのだと思うんですが、確かにその並びの芸人さんが好きでした──バナナマン、東京03、ラーメンズっていうこれは「ザ」という感じですよね。なのだけど、トータルで好きだと思うのは…というか観ていて「いやすごいな…」と感心してしまうことが多いのは漫才だったりします。コント師に比べて好きな漫才師を挙げることが非常に難しいのは、昨今よく言われていることだけれど、全体のレベルが高過ぎて正直みんなすごいと思ってしまうから。それぞれのアイデアがネタに注ぎ込まれていて、その見せ方や表現の仕方に真摯に取り組んでいる。腐したい訳ではないけど、この辺の自分自身のアイデンティティの模索に対する真剣さに関して言えば、音楽の世界よりもお笑いの世界の方が遥かに凄まじいなと思うところが正直あります。技術や表現への貪欲さは極めて加速主義的で目が眩んでしまう程ですが、それが原因で燃え尽きてしまうケースも多々ある訳で、そういう点では非常に儚い世界だなあとも感じます。
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…さて、ここまでは前振りです。ここからが本ネタ。
2026年9月6日(日)、初めてお笑いライブに行って来ました。ウエストランドのポッドキャスト / YouTube番組である『ぶちラジ』の公開収録です。
爆笑問題のJUNKを聴いていればウエストランドの名前は彼らのキャリア的にはかなり早い段階で知ることになります。M-1で優勝するとは正直思っていなかったけど、キュウと揃って決勝に行った時にはタイタンの波が来ている…とゾクゾクしました。要は所謂「箱推し」なのかもしれません。タイタン芸人、面白い人非常に多いです(キュウよ、どうか売れてくれたまえ…)。ウエストランドはネタというよりもトータルでの話芸という印象が強くて、前々からポッドキャスト番組が面白いなとは思っていたけど、しっかり聴くようになったのはM-1直前だったような気がします。その頃には公開収録の模様も当然観ていたのでいずれ会場に行きたいなと思っていたのですが、やっぱり引っかかっていたのは冒頭に触れたようにお笑いライブには「女性が多い」こと。ここにはとても緊張感があって、考え始めると段々と心配になってしまい、結局断念してしまうことが多々ありました。
大学生の頃のお話。渋谷に遊びに行くと、時折吉本の♾️ホールの横を通りかかることがありました。♾️ホールでのトークライブ(『〇〇の90分』とか確かそんなの)、とろサーモンとかカリカとかが出ていたやつをYouTubeで観ていたことがあった僕としては「♾️ホール!!」という感じだった、のだけれども、まあ見事に女性しかいません。出待ちしているお客さんも女性ばかり。しかもなんか勢いを感じる。そこにポンと飛び込むのは場違いも甚だしいように思えたものです。数年後、新宿で働いていた時にも似たような光景をよく見かけていたのは、職場のすぐ近くにルミネtheよしもとがあったから。出待ちのお客さんがいて、やはり女性が大半でした。「いやあ芸人さんってホント人気なんだねえ」と思いながらその横を通っていた日々が、僕にとっての新宿の一端を担っています。
何年か前のこと、果てまた別の当時の職場には猛烈なお笑い好きの女性(Tさん)という方がいらっしゃいました。その方は一見クールであんまり話しかけて欲しくなさそうな雰囲気、で別段僕も頑張って話しかけるタイプではない、ということでTさんがどんな人なのかをしばらくは全く知らなかった…のですが、それこそウエストランドとキュウが出た時のM-1の話を彼女と偶然したところ、途端に「笑顔笑顔笑顔」「喋る喋る喋る」という現象が発生。Tさんがまさにお笑いフリークスだったことがそこで判明し、それからは彼女と会うと高めのテンションで煽られながらお笑いの話が出来て…というか正確には圧倒的に彼女の方が喋っていたけど、ともかく楽しかったです。
Tさんは分かりやすいオタクタイプの人でかなりの人見知り・だけど趣味に関しては熱の入り方が違うというか非常に情熱的で、平日夜のお笑いのライブにも通っているし有給取って遠征したりする感じの人。ロングコートダディの東京進出に歓喜して興奮してもいました。そんな彼女にお笑いのライブに行ったことがないんですよね…行ってみたいんですけどね…と言うと「もったいない!」「一緒に吉本の劇場に行きましょう!」と仰ってくれていました。その頃合いに僕とお笑いライブの距離は急接近、「多分近々行くな…ようやく行けるな…」と内心ニヤニヤしていたのです、が、諸々あってその職場が解散と相なり、Tさんと日常的に会うことがなくなることに。「ひとりで行ける気がしない / お笑いのライブに連れて行って欲しい」という純粋な気持ちから連絡先を交換したく、共通の友人を通してその旨伝えてもらったのですがここに来てTさんの人見知りが発揮されてしまい(≒誤解されてしまい)連絡先は結局分からず今に至ります。まあ単純に、自分で直接聞けという話ですね。タイミングがなかったのは確かにそうなんだけど、そうするべきでした。そうすればもっと早くお笑いライブデビューは果たされていたはずなのに。Tさんは今どこでどうしているのかもよく分からない。お元気でしょうか。
と、そういうかたちで繋がりそうで繋がらなかったお笑いライブへの道でしたが、そこに対する欲求がここ数年特に上がりまくっていたのは事実。毎年キュウの単独に行こうと企むもののチケットを取る段階でなかなかゴーが出せない。一緒に行ってくれる友達できないかなあ〜〜〜と考えるだけでは当然友達はできない。一瞬話が脱線しますが「こういう友達欲しいなあランキング」の同率トップは「一緒にお笑いライブに行ってくれる人」と「女性服のお店へ連れて行ってくれる人」。女性の友達もいるのだからその人にお願いすれば良いじゃん…という話ではあるのかもしれないけど、まあそんなに簡単にはできないですよね。友達にも色々なタイプがあります。適材適所。
…したところ、遡り2025年のこと、なんとその年のウエストランドのぶちラジ公開収録は祝10回記念ということで規模を大きくして開催するとのアナウンスが。ここに来て「チャンス!!」と思ったのは①ウエストランドのファンはまだ男性が多い部類なはず②規模が大きければその分色々なお客さんがいて行きやすいはず、という2点の仮説に依ります。そこからはちょっと面倒臭いので諸々端折りますが(詳細知りたい方は是非YouTubeをご覧ください)、結局2025年には大きい規模で開催できなかったぶちラジ公開収録、しかし翌2026年に日本青年館ホールでの開催を正式に発表、その規模は1,200人。僕はすぐさまチケットを取り、意外と呆気なくお笑いライブへの初参加が決定したのでした。
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ということで実際にお笑いライブへ行ったことへの感想を書き残しておこうと思います。始めに断っておくと、ぶちラジ公開収録の内容そのものには触れません。端的に滅茶苦茶面白かったし、なみすけ可愛い〜〜〜なのですが、そういうのはもっと影響力のある方がnoteに投稿するでしょうから、しずかなインターネットに漂う僕はただ自分のことだけを書いていきます。良ければライブ自体は配信を買って全編観てみてください。非常におすすめです。
先にも書きましたが、今回の会場は日本青年館ホール。行ったことがない。そもそも音楽系のライブでもホールにはなかなか行く機会がない。お笑いでもよく使われている会場…でいうとLINE CUBE SHIBUYA a.k.a. 渋谷公会堂とか草月ホールなのだと思うけど、僕自身はそこまで経験がない。タイヨンダイ・ブラクストンが来る11月に草月ホールで来日公演をするらしいんですが、その報を見たときには「実験漫才でもするのだろうか」と感じました。
調べてみると日本青年館ホールの最寄りは銀座線の外苑前駅。外苑前駅自体にそもそも降りないのですが、まさか初のお笑いのライブの為にこの地を訪れることになるとは全く想像していませんでした。そして割としっかり雨、予報的には夜にかけて大雨に分類されていくであろう雨。ということで傘を差して会場に向かいます。始めは意識していなかったけど、同じ方向へ歩いて行く人たちは恐らく僕と同じように日本青年館ホールへ向かっていることが分かり始めてから、その多くが女性であることにも気付きました。「やっぱそうなんだ!」と、想像通りの展開に何故だかちょっとだけ胸が熱くなる。何故でしょうか。
しかし会場について仕舞えば男女比は正直気にならない。男性もいますが、やっぱり女性が多い、然れども「男いるんだけど。マジうざい」みたいな排他的雰囲気は皆無。比率的には7:3は言い過ぎ、だけど6:4もちょっと嘘かな…みたいな印象で、6.5:3.5というのが精密な観察の結果です。
ホールに入って自分の席を探してみたらなんとびっくり、ど真ん中もど真ん中でした。綺麗に左右対称の超当たり席。ステージ全体が欠けなく見えてとても良い場所。神様どうもありがとうございます。

やがて隣にもそれぞれお客さんが座ったのですが、おふたりとも女性。前の席も女性。後ろの人も女性。文化的にはやっぱり女性の方が多いんだなあとしみじみ感じましたが、ともかく両隣のおふたりに怪訝な顔をされなくて良かったです。どうもありがとうございます。神様にももう一度、どうもありがとう。
僕の左に座ったのはママさんという感じの方、右に座ったのはTさんの雰囲気を彷彿とさせる若めの方。ただ総じて感じられるのは20代後半〜くらいの人しかいないなあということ。これはウエストランドのファン層の話なのだと思います。ヤーレンズとか令和ロマンとかエバースでは多分こうはならないのでしょう。僕自身はこの雰囲気の中でどう見られているのかな…浮いているのかな…とちょっと考えたりもしました。音楽好きなんすよ…みたいな雰囲気を感じる人はあまりいません。端的に女性陣はお洒落な人が多くて素敵。それに比較すれば男性陣はラフな人が多く、千鳥のノブさんに「クセが強い」と言われる感じでキャラが立っている方がそれなりにいました。
そしてこれはある程度事前に分かっていたことだけれど、圧倒的に「ひとり」で来ているお客さんが多かった。友達同士・カップル・ご夫婦…みたいなパターンは決して多くない。これはお笑いライブ全体の傾向なのでしょうか? 識者の方、教えてください。
…とか考えていたら、何故かカサビアンの"Vlad the Impaler”が頭の中で止まらなくなってしまった。何故だろう。血が湧き立っていたのでしょうか? あのワウを噛ませたギターの音が…ずっと…聴こえる…何故…
…開演までの時間に飽きさせないように撮り下ろしの映像が流れていて、これはとても親切だなあと感じました。音楽のライブではあんまり想像が付かないですよね。大きい会場とかフェスだとライブ告知の映像が流れたりすることもあるけど(最近はそれでレディオヘッド来日が大きな話題になりました)、撮り下ろしすることってあんまりない気がする。なんか全体的に優しい文化だなあと感じます。ファン想いというかサービス精神というか…。
ちょっとビックリしたのは、開演前にトイレに立つ男性がチラチラいたのですが、同じ列(A列、B列、C列…)の人の前を横切るのが憚られたのか、座っている椅子を乗り越えて後ろの列へ移動しつつトイレへ向かう人がいらっしゃったこと。しかも1人じゃなく、3,4人くらいはいました。そしてその全ての人が上手に椅子を乗り越えることが出来ず足がつっかえてジタバタしていて、良く言えばコミカル・悪く言えばダサかった。「クセが強い」と彼らに突っ込んであげて欲しいけど、ちょっと怖かったから言えないよねあれ…。ともかく、ふと気付けば目に付くのは男性ばかりで、これは、なんというか、世の中全体の傾向だなと思いました。胸が痛い。客観視できるように常日頃心がけるようにしよう。
開演前は「隣の人が気になって笑えないとかあるのかな…………………………」とちょっとだけ考えていたのですが、始まっちゃえば全く気にならない。みんな自分が面白いと思った時に笑うし、変なとこで笑ったとしても誰も気にしていないなという感じ。これはウエストランドのお客さんだからだなと思います。漫才のラフな雰囲気が場に投影されている、自由で自然にしていればなんでもOK。なみすけが冒頭に登場した時に一斉に拍手と歓声が沸いた時、ああみんなナチュラルだなあ、良いお客さんばかりなんだなと非常に感じました。
ウエストランドのふたりが物販にあるウリボーイTシャツをきちんと着ていて、事前の紹介の時には買わなくて良いかな…と思っていたはずが、途中休憩の段階でもう欲しくて欲しくてたまらない。非常に商売上手。ということで終演後に物販に並んだのですが、物販で対応してくださっている方々の幾らかは見たことがある。若手芸人さんたちが駆り出されているのでした。こういうところ、本当にお笑い文化って感じがする。お手伝いも人間関係の一環としてあるというか、マナーとして存在しているというか…と書いてふと思い出したのは、今年の頭に灰野敬二 / ジム・オルーク / オーレン・アンバーチのライブを高円寺のShowBoatという会場へ観に行った時、そこで物販でお店番として座っていたのが石橋英子さんだったこと。あれだけ評価されていて名誉ある賞を受賞されているような方でも物販には座るのは、やっぱり人間関係と優しさが故でしょう。
帰る頃には大雨になっていて肌寒く、足早に外苑前駅へと向かいます。帰りの銀座線渋谷行きの車内のこと、同じく外苑前駅から乗り込んだそれなりにご年配のご夫婦が「楽しかったねえ」「配信も観ようねえ」と穏やかに話していらっしゃって、大変ピースフルでした。ご夫婦でお笑いのライブに行くとか、なんか眩しい。なんなら音楽のライブに一緒に行くことよりも眩しいかもしれない。家の近所でお笑いライブをしていたら、ふらっと行ってこようよ…ってふわっと出かけたくなる気がする。そのまま帰りに美味しいご飯食べて行こう…みたいなね。眩し過ぎる。なんかでも、その「ふらっと」と「ふわっと」が音楽のライブではとても難しい。一方、お笑いのライブではきちんと実現できる。お笑いって良いよね、と思わずにはいられない一幕でした。
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短くまとめるつもりが全然ダメダメ。しかし端的に言えば、猛烈にオモロい1日でした、というこれに尽きます。事前に想定していた「女性が多い」は確かにそうなんだけど、意外と大丈夫なものですね。ウエストランドのライブだったからなのか、考え過ぎだったのか、一方的なイメージが強過ぎたのか、或いは大人になったからなのか…その全てでありその全ての複合要素から成る理由には違いないのでしょうが、ともかく鬼門の初ライブは楽勝で乗り越えられました。ということで、実はチケットを取っていた10月末の吉住さんの単独公演も楽しくて仕方がないと思われます。
「お笑いライブ楽しかったです!」とお伝えしたいTさんは今ごろ何処へ。お元気でいてください。そして引き続き「一緒にお笑いライブに行ってくれる人」と「女性服のお店へ連れて行ってくれる人」は諦めずに探し続けていきたいと思う所存です。