私は二十年も昔、中高一貫の、いわゆる進学校に通っていた。
男女共学だけど、出来るのは女子の友達ばかり。当時はカーストなんて言葉はまだ人口に膾炙していなかったが、キラキラしてないホウ、何となくオタクやサブカル系で集団を作っていた。
ホウ。
最初は、友人Kの口癖だったように思う。
ほうほう、と。
それをSが真似して、私達の間での万能語となり、いつしかホウ語を喋るホウ族を自称するようになっていた。
ホウホウ、ホホウ! ホーウ
友人Kを族長に仕立て上げたSは、自分を広報にし、Tを副族長、私をIT担当、Fを害虫イレイザーとした。
……彼女のセンスは独特だった。いや、あの頃の私達は皆、天才だったのかもしれない。
進学校の在校生として当然勉学に注がれるべき熱意を、私達はホウ族としての自己表現に費やした。
サイトを運営し、漫画を描き、服を作り、演劇をし、演奏をし、音楽を作り、ゲームを作った。
勉強など然程しなくても何とかなっていた。模試で悪い点を取ることはなかった。そんなことより、と私達は族長の下に集まり、好きなことを語り合った。
FFXがどうだったとか、pop'n musicの誰が可愛いとか、ミスフルのカップリングとか、バンアパはいいぞ!とか、次のポケモンは買うか?とか、嘉門達夫の布教とか、宮城谷昌光の貸し借りとか、氷の魔物の物語を全巻持ってきたりとか、ポルノグラフィティのマイ・ベストアルバムチョイスとか───
毎日毎日、熱に浮かされるように。
思春期の悩みから目を逸らす様に。
一番私達が柔らかくて多感だった頃、
私は、人間ではなく、ホウ族だった。