いきなり目の前に現れて、人の気もしらずに幼気な思春期のど真ん中に大穴開けて、あっという間に消えてしまった。
しいていうなら、隕石みたいなモン、と思う。
軽い天災。不幸な事故。そうは思って見ても、あいた穴はデカすぎて決死に埋めようとしても埋まるもんでもなく。
人生一度きりの高校生活。3年間の青春はヒューヒューと隙間風を吹かして、空っぽのまま過ぎていった。
◇◇◇
「岡くんは好きな人おるもんな」
唐突にクラスメイトの女子にそんなことを言われた。
「はあ? そんなのおらんよ」
自分は恋愛ごととは無縁の所で生きてきた。
何故、そんな自信満々な顔で断言されたのか、不思議に思いながら顔を顰めると、彼女は嘘やと笑った。
「見とったら普通に判るし」
そこら辺の男子と違うもん、と。
机を並べて談笑していた友人達をマニキュアで派手に装飾された指先がなめていく。
折角仲良く放課後の無意味な時間を楽しんでいる所に、変な水を差された気分だ。
さして女子との交流が無かったとて、高校3年にもなればそれなりの興味は沸く。
その想いが実るか実らないかは別として、友人達にも憧れる人ぐらい居たし、それらを差し置いて、さしたる興味も抱けないまま無味無臭のまま平坦に過ごしてきた自分だけが好きな人がいるとはどういうことか。
女の勘は当たるもんだと言い張る姿は宇宙人の様にさえ見えた。
「そんなん言われても嘘いうてへんし」
期待に添えなくてごめんなさいと頭を下げると、何か言いたそうにしながらも渋々自分のグループへと帰っていった。
「なんなんあれ」
「知らん」
「岡に気ぃあるとか」
「……あるか?」
「ない、な。ないない」
そんな素振りじゃなかったと口々に言う友人らに、そらそうだろと思いながらやっぱりその時ですら何も感じない自分を少し薄情だと思った位だ。
◇◇◇
「女の勘、やばいな」
狂児に、確認してみた次の朝に、唐突に昔の夢を見た。
今では顔も朧気な、そこまで話したこともないクラスメイトがどや顔しているのが目に浮かぶ。
誰も好きになれなかった訳じゃ無くて、多分、ずっと前からたった一人のおっさんを好きだったんだろう。
一途すぎる自分にぞっとしながら、その相手がよりにも寄って反社の人間で、そのくせろくでもない奴なことに笑けてくる。
現実は笑ったところで、ちっとも好転しやしないけれど、笑い飛ばしてみると少し視界が明るくなる気がした。
恋なんてしょうもない。そう思ったことはない。
でも、この恋は、どうしようもない。確信がある。
恋はいつか終わるもんだと聞いたことがあるけれど、この恋の執着はどこなのだろう。
自分が本当は面白みのない人間なことがバレて、あの人に飽きられる未来だけは嫌だなと思いながら
「これが、恋……?」
声に出しても、どうにも現実実がなくて、やっぱり笑えた。