巡り合わせのシナリオ

はるな
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公開:2026/3/4

 大学3年に進級する際のもっぱらの関心事は、「どの先生のゼミに入るか」。自分の興味のある分野の研究をしている先生に話を聞きに行き、比較検討して申し込みをする期間が設けられ、わたしもいくつかの研究室を回った。わたしは国際関係学部国際関係学科国際政治経済コース、もともとヨーロッパの政治に興味があり、ある先生の教えを乞いたくてこの大学に入った(わたしが入学した1年後にその先生は関西の大学に移り、結局授業を受けることもかなわなかった。そしてさらに余談だが、いまのわたしの政治的スタンスとはまったく違っている先生だったので、もしかしたらいらぬ軋轢を生まずに済んだのかもしれない)。だからその関連のゼミが第一候補、あとは一般教養の政治学がおもしろかったから、ヨロ論(国際ヨーロッパ論)のK先生か政治学のM先生かなあと絞り込み、Kゼミはかなり定員オーバーになるらしいと小耳にはさんで、それならとMゼミに申し込んだのだった。それがもう30年前(!)のことだ。


 同期は、違う学科からわざわざ学科越えを熱望してゼミに来たSくん、学科は同じだけど英語のクラスが違うから、それまではお互いにあまり認識していなかったIくんとKくん。Iくんはぶつぶつ言いながらもやるべきことはきっちりやるタイプ、Kくんはかなりユニークで、何を考えているのかよくわからないけれど笑いを巻き起こすキャラクター、Sくんは人懐っこくて顔が広く、とりわけ年上にかわいがられる人。そこにわたしが加わり、4人で始まったゼミが、まさかこの歳になるまでやり取りが続くことなんて、当時は考えてもいなかった。

 学科が学科だけに、1年から2年にかけては英語のクラスが基本単位で、主に仲良くしていたのは英語のクラスが同じだった人たちだ。ただ、クラスの半分以上が県外出身者、卒業したあとはちりぢりになり、結婚して名前が変わっただろうことで探せなくなってしまった人もたくさんいる。たぶん、相手から見たわたしも、東京で就職して体を壊して地元に戻ったまでは何となく知っていても、そのあとは連絡が取れなくて…となっているのだろうと推測する。でも、そんな状態でも、ゼミの同期とはつながっている。当時から「はるなのゼミは本当に仲いいよね」と周りから言われるほど仲が良く、しょっちゅう誰かの家や図書館に集まっては勉強してお酒を飲み、わあわあと騒ぎながら一緒にいたのだった。

 その指導教授だったM先生が、今月定年で退職される。思い返せば、先生もまだ30代半ばだったのだ。「鬼のM」と言われる先生で、先生に聞いたところによると、特に政治学では履修者の3~4割の学生を落としていたという。わたしの学年は、そのMゼミの2期生だった。1期は男性が2人のみ、わたしたちが4人入って、「やっとそれらしくなった」そうだ。先日、最終講義+ゼミのOGB会が大学とその近辺で行われ、いそいそと馳せ参じ、久しぶりに先生に、そして同期のIくんとSくんにも会うことができた。33年にわたる先生の在職、輩出したゼミ生は60人以上とのこと。そのうち20人ほどが集まり、おおいに食べて飲み、近況や昨今の政治について熱く語り合った。本当に楽しくて、刺激的な時間だった。


 お開きになったあと、わたしたち3人は、ゼミのあとの飲み会が終わって先生をタクシーに押し込んでから同期だけで行っていた、駅の南口のつぼ八へ。場所も変わらず、お店もなくならず、そのまま営業していることに感動を覚えるほど。前もここに座ったことあったよね、という席に通され、3人で飲む。学生時代のバカ話から最近の仕事についての話、子どもの話、健康の話、そして話題に出るのは、今回来なかったKくんのこと。「あいつ、しいたけ嫌いだって言ってるのに、国会図書館で昼ごはんにきのこスパゲティ頼んで、『なんでしいたけ入ってるんだよ!』って怒ってたよなあ」「で、その帰りに秋葉原に寄って、なぜかそこでビデオデッキ買って、新幹線で持って帰ってきてさ」「それ別にいま東京で買わなくてもいいだろって」「卒論もぎりぎりまで出さなくて、コピーと製本手伝ったよね」「結局口頭試問に引っかかってなあ(当時は、単位を与えられるか微妙な卒論に対してだけ口頭試問を行うことになっていた)」「想定問答とかしたねえ」「1回目のOGB会のときに、クラクションがすっごい変な音で鳴る車で来てな」「乗せてもらってるときにエンストしたしめちゃ怖かったよね」、出てくる出てくる逸話の数々。Kくんが来られない事情は十分承知しているけれど、それでも会いたかったな、と思う。

 今回のOGB会で、ひとりひとり自由に話す時間が与えられたときに、わたしたち3人は、それぞれ「うちの学年は仲が良かった」という話をした。ひとつ下の学年のYくんは、実はそれをとてもうらやましく思っていたのだと、今回はじめて聞いた。先生にも、「きみたちの学年が、これまでのゼミ生でいちばん仲が良かった学年かもしれない」と言われて、そうだったのか、と思った。


 何かがひとつ違っただけで、こうはなっていない。もしわたしがKゼミに申し込んでいたら。この大学を選んでいなかったら。そして、それぞれがみんな、当時から4人でいるのが楽しいと思えていなかったら。巡り合わせとは不思議なもので、でも必然なのかもしれない。この巡り合わせのシナリオを書いてくれた誰か、どうもありがとう。この4人で、本当によかった。