「おい武田、階段の踊り場にバナナが浮いてる」
俺はとある地方の役所に勤めている公務員。昼食の後にトイレに行こうと通路を歩いていると同僚の谷崎に呼び止められた。谷崎は俺を役所の階段の踊り場に招き寄せ、それを見せた
「……バナナが、吊り下げられてるな……階段の……踊り場に……」
バナナだな。俺たちは遠巻きにバナナを観察する。役所の階段部屋、4階踊り場の天井から、よく見えないけれどテグスに結ばれたバナナが一本吊り下げられている。シュールな光景だった。
「……誰かのいたずらだろ。課長はなんか言ってたか?」
「昨日はおまえと通話しながら一晩中ゲームしてた。だから寝不足で朝礼は立ったまま寝てた。何も聞いてなかった」
「気が合うな。俺もだよ。朝礼は寝てた。それで何で取っちまわないんだ」
谷崎は神妙な顔で俺に囁いた
「武田、おまえバナナ型神話って知ってるか?」
「世界に伝わる似通った神話の類型だろ? なんで俺たちには寿命があるのかっていう説明……うちの地元の神社にもあるな。市長がドラマで使われるぞって大騒ぎしててうるせえのなんのって」
太古の昔のこと。人類は神にバナナを貰って生きていた。だがある日突然神に石かバナナを選べと言われてしまった。人間は食べ物欲しさにバナナを選んでしまう。すると神は言った。石を選べばおまえたちを不老の存在にしてやったのにバナナを選んだのでおまええたちにはこれからは寿命の概念が産まれるのだワーハハハ!! こうして人間に理不尽にも寿命が与えられた。このような神話の類型は世界中にある。便宜上、バナナ型神話と呼ぶらしい。
「なあ、次に石が下りてきたらどうする?」
「ゲームのし過ぎだ。人間の寿命がこれ以上縮んでたまるか。さっさと用務員さんに取ってもらおう」
「でもよぉ、いたずらにしては手が込んでないか? もしこれがエイリアンとの遭遇とかだったら、あー!!」
なんだか馬鹿らしくなったので、つり下がっていたバナナをもぎ取って、皮をむいて食べてやった
「まずー」
その時だった。バタバタと警備会社の兄ちゃんがこちらを指さしながら大声を上げ階段を上って来た
「あー! バナナ! 食べてしまったんですか!? 今日は不審物の警戒訓練があるって朝礼で言ったじゃないすかー! 予定見てないのかよー!」
「えっ、あ……!? ほんとだ……」
「おい、バナナもう一個持ってきてくれー! ったくもうなんでこんなところにぶら下がってるバナナ食べるんですか、明らかに不審物じゃないですかなんで不審物食べちゃうんですか!」
「え、だって、なんでバナナなのさ!?」
「地元の神社で有名な話だからでしょ! バナナの神話! ったくも~もうすぐ訓練始まるのに」
俺は谷崎と顔を見合わせてため息をついた。
結局、俺たちは課長に大目玉を食らってしまった。さすがにこれは俺たちが悪い。反省はしたがあの吊るされたバナナは階段の湿気で悪くなっていたらしく俺は盛大に腹を壊してしまった。なぜ俺だけが……トイレで呻きながらそれでも俺は、ちょっとだけ安心していた。あのバナナが訓練用のバナナでよかった、なんて。
了