3.
にいさん!絵本を読んで!
また?好きだなあ。この本はもう読めるだろう?
にいさんに読んでほしいんだもん
しかたないなあ。分かったよ。
兄さんと2人、貧しいけど幸せだった。
優しい親友とその家族。
優しい、優しい兄さん。
でも。兄さんは、教会にだけは絶対に行かなかった。
「まだ仕事が残っているんだ」
「でも…」
「いいんだ。行こう」おじさんが、俺の手を引く。
次第に抗争が激しくなり、大人達は遠くの街の戦いに駆り出されるようになった。この町に届く前に、戦火を抑えるためだ。金にもなる。
大人達を見送る時、兄さんは何処を見ていたんだろう。俺には向けない眼が、俺は怖かった。
そして俺達は町を捨てた。
兄さんはいくじなしだ。俺は兄さんをなじった。
兄さんは俺に触れなくなった。
俺に読み書きを教えながら、兄さんは仕事に行く。
最初は煙突掃除やゴミ処理だった。俺も働くというと、兄さんは困ったように笑うんだ。
ある時から、怪我をしたり、ひどく憔悴して帰るようになった。危ないことをしないで欲しいと、俺が言うと、大丈夫だと笑う。
俺は学校に行けるようになった。
兄さんは上等な服を着て、高級な車に乗って出かけるようになった。何日も帰らない日もあった。「ごめん」と目を細める。
女友達は笑顔が素敵と騒ぐけど、俺には兄さんの笑顔が見えなくなった。
そして聖地から迎えがきた。
兄さんは、やっぱり笑っていなかった。
俺は、兄さんの笑顔が、優しい手が好きだったんだ。伝えられるのは最後かもしれない。
「兄さん。愛してる」手を伸ばす。
兄さん。確かに俺は、あなたに守られていた。でも…俺もあなたを守りたかったんだ。
この気持ちを言葉にできる時がきたら、手紙を書くよ。どうか、兄さんが守られる勇気を取り戻せるように、俺は空に願うよ。