ある少年の物語③

絵空事。
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俺が嫌いだった街は

俺が知らない街になった

あの日。

前触れもなく現れた都市同盟の大軍は、瞬く間に砦を占拠した。街にいた兵士は多くはなく備えもなかった。

俺達はもみくちゃになりながら、モラビア城を目指そうと南門に向かった。

予想よりも早くカシム様の兵士達が援軍に来たが、何故か酷く混乱していて、数も少なく、民を守りながら城まで撤退するので精一杯だった。

解放軍との戦闘もあったのに、いち早く駆け付けてくれたと民衆は涙ながらに感謝した。

気づけばカシム・ハジルは解放軍に下り、北方の2つの砦は都市同盟のものになり、帝国は共和国になった。元解放軍のリーダーは英雄として戯曲も作られている。

(……どうでも良いな。全部)

全部、本に描かれた物語のように感じる。

俺達は救われなかった。

それが現実だ。

巻き込まれた民衆はしばらくは城に留まったものの、戦争が終わると、首都を目指すもの、街に戻るものと散り散りになった。

俺は離れ離れになったばあちゃんを探しに街に戻った。ばあちゃんは足が悪く、逃げることも出来ず、道端で事切れていたらしい。うちの隣の夫婦が、埋葬してくれていた。

子供が一人で街を出られるわけもなく、小さいながら家もあったから、俺は街に残った。

どのようなやりとりがあったのか。都市同盟と共和国は小競り合いもなく、ピリピリとした緊張感の中、睨み合っていた。

カシムはモラビア城に戻ったが、俺達の街は依然都市同盟のものである。

俺達は共和国民ではなく都市同盟にも属していない。

自分が頼るべき国も分からない。

そんな半端者の元々の住人と、都市同盟から流れてきた新参者の間では、しばしば諍いが起きた。俺も少しだけ荒み、都市同盟の兵士に絡んでは痛めつけられる日々を過ごしていた。

「おい!また戦争だ」

「今度は何だよ」

酒のつまみを食べながら話す。

「ハイランドに喧嘩売ってた奴らが、トランと手を組んだらしい。それで、この辺りからも義勇兵を募るんだってよ」

「ハッ。志が高い奴らは戦争が好きだな。俺達の命を何だと思ってやがる。だいたい、寄せ集めの軍でハイランドに敵うわけないだろう。あそこは、後ろにハルモニアもいるんだぜ」

「お前…。良く知ってるんだな」

「別に。知らなきゃ死んじまうからな…」

俺達の街は、無知だった。

なぜ、あの時都市同盟が攻めてきたのか。

なぜ、カシムの軍は負けたのか。

なぜ、ばあちゃんは死ななきゃいけなかったのか。

何も分からないまま、負けた。

「じゃあさ。知りたくないか?」

「何を?」

「俺達のリーダーの顔」

「……」

「俺達の敵の顔も。俺達、あの時なにも分からないまま、負けちまって、気づいたらここは都市同盟になってた」

「……」

どうでも良かった。

どうでも良いけど。

この街を出て、物語の英雄の顔を見てみたいと。

そう思ったんだ。

@esoragoto
紫乃の描き散らし。