それはある種の忌み言葉

ether_fungus
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わー、またずいぶん間があいちゃったなーとか思いながらお茶をしつつこれを書いていますこんにちは。反省はしない。

まあまあなんか色々燃えてるのを遠目で眺めながら、ぜったい余計なことは言わないぞ、と誓いをあらたにしたりしてるわけですが。これだけは書き留めておいたほうが良さそうだな、という話題があったので。

「すごい、うらやましい、という感情を表現するときに、それがたとえカジュアルな文脈だったとしても、『ズルい』という言葉は使わないほうがいいぞ。」

はい。必要な話はおしまい。

続きは少々怖い話かもしれないから、刺激が強いのがダメならここで戻りなさいね。

さて。

前段の唐突になんか言って終わった話。

そのうち生まれついての恵まれた容姿+努力で理想のルックスを維持している人に対しても「ズルい」とか「美の私物化」なんて言う人が出現しかねなくて、なんだか狂ったSF小説みたいなのを想起させる流れだ…「そんなバカなことが起こるわけないけど、実際そうなったら恐ろしいなあ」って。

https://twitter.com/chino_y/status/1772458944864071824

「絵柄の私物化」とかいうワードで燃えてた文脈で、こんなん流れてきたんですが。

いるよ。

たぶん、想像するよりももっと普通に、いる。

少し話はずれますが。すぎやまこういちの54年と5分の話とか、ピカソの30年と30秒の話とかの類の話を聞いて、「そうですよね!経験と蓄積には敬意とお金を支払うのが当然です!」って、まあだいたいの人間はいうと思う。

でも、なんですよ。

その「支払うのが当然ですよね!」って言ったその口で、「××さん、ずるい!」って言うんですよ。無邪気に。結構な数の子が。

本人は悪意なんかないし、「そういう意図やニュアンスではなかった」って言うと思いますし、まあそういうことなんだと思うので、一々咎めたりはしませんけれども。

天賦の才というにはほど遠く、ただそれしかできないから愚直にそれだけを磨き上げてきた人間に、あまりにも失礼な物言いなんですが、たぶんそういうことは考えずに、「能力がすごい!」という意味で「ずるい!」を使う。「じゃあ君もやればいいよ(最低10年)」と言われると「えー、無理です」と答える。まあ何も言わずに黙ってた方がなんぼかマシですね。

体力もなく家柄にも劣り、才能にも運にも恵まれない人間が、それでもなにがしか他人と比較して遜色ない能力を身に着けるのに、どれだけの代償が必要で、そして日々どれほどのコストを支払い続けているのか、想像だにできないのでしょう。それを手にするには、時間や金だけではなく、あるいは人格や思考、価値観そのものを対価に支払う必要があるとかいうことは思いもよらず。だいたいの能力と言うのは身に着けたら終わりではなく、一定の水準を維持するためにバカげたコストを継続的に要求する、そのコストを払い続ける覚悟には目をむけることすらなく。ただ、あああの人は運がよくてうらやましい、自分もあれくらい才能があればいいのに、程度の解像度しかない。

話を戻しましょうか。

まあ集団の大半が、無邪気に「ずるい」を使うような人間だとします。

そして、世の中には、「言われたことを『文字通り』に信じる」という特性がある人間がいます。

そういうタイプの人間が「美人でずるい」というのを聞いてどう解釈するかというと、「ああ、みんなもそう思っているから私は正しいんだ」と思いこみます。高い確率で公正世界の誤謬もトッピングされます。

残念ながら、この話にオチはないんですよ。ただ、いる、とだけ。

「すごい、うらやましい、という感情を表現するときに、それがたとえカジュアルな文脈だったとしても、『ズルい』という言葉は使わないほうがいいぞ。

その言葉は、お前のことを仲間だと思う悪いものを寄せるから。」

@ether_fungus
備忘のためにつらつらと。 プロフィール画像はPlan 9のGlendaです。