よく聞く「心配事や不安の96%は実際には起こらない」説。
その残りの4%に当たってしまい、私たち夫婦はほぼ1週間ほど、心理的ショック状態から抜け出せずにいます。幸い2人とも体だけは丈夫(touch wood🪵)なので、なんとか打開策を見つけてここは乗り越えたいところ。
気を張って日々をやり過ごしているのだけれど、それでもスッと沼の底に引きずりこまれそうな瞬間があります。
どうせ沈む沼ならば、楽しい沼がいいよな……と、現実逃避するために潜りはじめたのが、文房具の沼。ペン、ノート、インク。いやあ深い。ショップのカタログやブログ、YouTube動画。コンテンツは山ほどあります。検索するだけでも時間がどんどん溶けていくのです。
そして文房具には、たくさんの思い出があります。
私のはじめての「ちゃんとした」筆記具は、中学の入学記念に父がプレゼントしてくれたセーラーのプロフィット万年筆。あの頃は書き方のコツもお手入れの方法も何も知らずに、とても雑に扱っていました。私はただでさえ筆圧が強いので、ペン先にだいぶ負担をかけていたと思います。もったいないことをしました。いまも実家の書斎の引き出しに仕舞ってあるはず。

そして社会人になり、モンブランのボールペンを持つようになりました。
お客様の前でメモを取る場面の多い仕事だったので、恥ずかしくないものをと少し背伸びをして買った初モンブラン。
香港スターフェリーを尖沙咀(チムサーチョイ)側で降りたところに星光行(スターハウス)という建物がありまして、昔その地階のアーケードのようなところに小さなペンの専門店があったのです。そのお店で自分のお給料で買ったのが、写真左上のモンブラン。まだ独身だった香港時代の物ですから、夫よりも長い付き合いです。今も細字ブラックの替芯を入れて使っています。
赤いジェムが付いているほうは、同じくモンブランのポケットサイズのボールペン。香港で勤めていた会社の直属の上司からいただいたもの。
ある日出勤すると、私はこの上司から解雇を言い渡されました。人員整理で上層部から私を辞めさせるように指示があったのです。当時チームをリードする立場だったしクライアントケア業務の中心にいたので、辞めるなんてとんでもない、私がいなくなったらチームメンバーはもちろんあなたが困るんですよ?と私は居座り、彼を困らせたのでした。
ネゴをしている最中にプロジェクトが忙しくなり、クライアント担当者(私)を替えてしまうと進捗に影響が出ると上層部が判断。結局この整理解雇の話は流れたのでした。
数か月後タスクが一段落したころ、上司が「上に言われたことをそのまま君に伝えるしかなかった。あの時辞めさせていたら、このプロジェクトは大変なことになっていた。本当にごめん。」とお詫びの印としてプレゼントしてくれたのがこの黒モンブランなのです。私の真っ赤なアドレス帳の色に合わせて選んでくれたみたい。
香港の人は気前がよく、これくらいの価格帯のプレゼントは友人からもよく貰っていたので、私も感覚が麻痺していたんですね。とても高価な品物なのに、遠慮もせずに有難くいただきました。Lさん、今も大切に使っていますよ。
彼とはお互い他の会社に移ってからも、よき友人としての関係が続きました。今もこのペンを取り出すたびに、食うか食われるかの競争社会で頑張っていたころの自分や、仲間たちのことを思い出すのです。■