北アイルランド アルスター地方、「シャーリー・ホームズとバスカヴィル家の狗」 高殿円 早川書房

日々
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「鎌倉駅徒歩8分、空室あり」と一緒に図書館で借りた本。装丁はこちらも紺色で、結果的に紺色縛りにも見える選書となった。赤い装丁の前作「シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱」は実家の本棚にあり、面白く読んだ記憶がある。その続編である今作が出たことはどこかで見聞きしたような気もするが、すぐに買って読もうとはならなかった。

で今日、今作を読了してその流れで調べたらなんと明日、さらに続編の第3作が発売されるとのこと。偶然いいタイミングでハマり直して売り手のペースに勝手に乗っかってしまうことはけっこうあるが、ドンピシャすぎて笑ってしまった。買うしかないのだろうか…。今作の文庫は買おうかな。第3作は文庫になったら買うか…。他力本願で大変申し訳ないが、たぶん出るでしょ文庫。

過去、高殿円作品は「カーリー」シリーズを夢中になって読んだ。が、案の定あらすじの記憶がない。次はこっちを読み直すことにしよう。

今作、表紙めくると「女性化現代版ホームズ・パスティーシュ」とある。ホームズ・パスティーシュとはよく聞く言葉だが、パロディとパスティーシュって何が違うんだっけ。少し調べると、パロディは「先行作品の批評的な意図を込めた模倣」、パスティーシュはフランス語で「先行作品の模倣」。小説用語的にはパスティーシュは広義ではパロディに含まれるが、より「文体模写」に近い意味で用いられるとのこと。

ホームズシリーズの続編っぽい作品、つまりドイルが書いたっぽい作品がホームズ・パスティーシュ…とおおまかに考えていたが、それで正しい…のかな?だとすると今作はパスティーシュというよりはパロディな気がするが、まあ個人的にはあまり気にならないからいいか。

当然ジョー・ワトソン視点で物語は進むわけだが、この人ってこんなに底知れないキャラクターだったけ。原典シリーズの数作以外にはBBCのSHERLOCKとダウニーJr. 版映画、それと家族が見ていたブレット版ドラマを一瞬見たくらいなので詳しくないのだが、設定が現代に近くなるほどコンビ間の感情が重めになっている気がするのは気のせいなのかどうなのか。このテーマで論文書いた人がたくさんいそう。

私は女性間の友情~恋愛のどこかの感情をつぶさに描いた作品、平たく言えば百合作品と称されるジャンルを大層好むので、語り手の感情を深く掘り下げたり、隠された感情を示唆する描写は大歓迎だが、前作の記憶があまりないので新鮮に驚いてしまったのである。シャーリーを神格化するあまり自分がどうなってもいいと心底思っていそうな気配を急に色濃く出してくるものだから、ウッとなってしまう。思わず語彙力を放棄してしまう。フランクで活発な印象の語り口とのギャップが大きい。

それに、アルスターのジョーからロンドンのシャーリーに宛てた長いボイスメールの部分。初見では読みにくいなあと思ったが、まさか薬物を盛られた直後だったとは…。昼ごはんに出たのにもう日暮れじゃんみたいな箇所は確かに違和感があったが…。この人、色々な意味で信頼できない語り手すぎるんですけど。

ジョー視点での時事ネタやご当地(?)ネタ、おいしそうなごはんやお菓子や紅茶(コーヒーではない!)の描写が豊富にあり、ふんふん、そうだねとどんどん読み進めてしまうので、語り手の罠にもずんずん足を踏み入れてしまい、突然びっくりすることになる。これがくせになって面白い。

あと、シャーリーのファッション描写が好き。

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明るい下でよくよく見るシャーリーは、黒のやわらかそうなウール製のナポレオンコートにロイヤルネイビーのトップスとホットパンツ、朱色のバーバリーチェックのスカーフという姿だった。身軽ではあるがモデルの素質がよすぎて、ELLEマガジンの巻頭広告から抜け出てきたようだ。