書き写すことのプラクティス(2):石垣りん『繭』

shogo
·

バクダンの威力が大きいのではなかった

地球がちいさいのである

蚕が桑の葉を食べるように

何ものかの権力によって

世界は喰い荒らされ、その腹におさまる

ふとるのは国であるのか

主義であるのか

(トニカク人間ではない)

あ、

ひとすじの糸状のものが

中空にまい上がり

なおまい上がり

その噴煙ようのものが

がんじがらめとなって地球をとりかこみ

完全な一個の繭となるころは

中のサナギも殺されて

ほんのひとまき

絹がとれる、というのであった。

(伊藤比呂美編『石垣りん詩集』(岩波文庫)より)