とあるチームでのオンボーディング体験記
どの会社でも、新しいメンバーが入ってきたらオンボーディングをすると思う。私も前の会社に入社してすぐにオンボーディングを受けた。
入社初日、オフィスに出社して PdM から会社のことやプロダクトのことなど、色々な説明を受けた。お昼はランチに誘ってもらって、PdM とデザイナーメンバーで会社の近所のお店に行った。私がアニメや漫画が好きなので、そこら辺の趣味の話になった。PdM が実は大のジョジョ好きで、承太郎に影響を受けてずっと帽子をかぶってた時期があったとかなかったとか、そんな感じの雑談をした。当時話題になっていたチェンソーマンの話もした。
初日はオンボーディングで終わり、頭がパンクするかと思うほどの情報のシャワーを浴びた感覚があった。でも、心地良い疲労感だったことは今でも覚えている。
翌日以降、チームのセレモニーに参加するようになった。はっきりと覚えていないけど、朝会か何かで、メンバーと初顔合わせをした。(デザイナーは事業専任でデザインを担当し、開発チームのメンバーとして PdM とエンジニアと共にスクラムを組む。) この日は確か PdM と私は出社していて、残りのエンジニアメンバーはリモートだった気がする。
朝会シートに各メンバーから歓迎のコメントが書いてあったり、自己紹介があったり、「はのさんようこそ!」というムードがあって、ZOOM 越しでもそれが伝わってきた。あったかくて居心地が良かった。
最初のデザイン業務ですごく印象に残っていることがある。プロトタイプ第一弾を作り終えた私は、チームにメンションして「プロト作ってみたのでコメントください!」的なことを動画とともに Slack に投稿した。そしたらすぐにメンバーから反応があった。みんなポジティブな反応で、その上で「こんな風にするといいかも」みたいな意見をもらった。早めに経過を共有すること自体に「いいね!」と言ってくれたメンバーもいた。
初めての業務で初めてのアウトプットだったので、実は結構ドキドキしながら投稿していた。すぐにみんながワッと反応してくれたこと自体が嬉しかったし、意見をもらえたことも嬉しくて、なんだかとても安心した。メンバーとしても、新しく入ってきたデザイナーのアウトプットに関心を持ってくれていたのかなと思う。
こうした一連の出来事を通して、すぐに新しい環境に溶け込むことができた。
オンボーディングは相手の存在を「承認」すること
なぜ新しい環境にスッと溶け込むことができたのか。「あったかくて居心地がいい」と感じたのはなぜだろうか?
その答えとして、「PdM やメンバーから存在承認を受けたから」ではないかと考えている。『エンジニアリング組織論への招待』という本に「承認」について詳しい記述があるので、それを紹介しながら言語化してみたいと思う。
この本によると、「あなたの存在を認めている」というメッセージを発信するテクニックを「アクノレッジメント(承認)」というらしい。「承認」は「よかった結果を褒めること」ではなくて「認めること」だ。相手の存在そのものや、相手の行動に対して、理解や受け入れ、感謝をすること。
「具体的な行動や言葉を発すること」がとても重要で、自分がどんなに相手に興味関心を持っていたとしても、相手に伝わっていなければ「承認」は成立しない。(個人的な思いとして、何事も、人は観測可能な相手の行動でしか、物事を判断できないと思っている。内心は本人にしかわからないもので、相手から決して見えることはない。)
大きく分けて、アクノレッジメント(承認)には3段階あるという。
存在承認
相手が今ここにいてくれてありがたいというメッセージ
挨拶をしたり、声をかける
自分が前に話したことを相手が覚えてくれている
相手が頑張っている様子を見て励ます
傾聴する など
行動承認
「デザインを早い段階で上げてくれた」「よく調べてある」のように、ポジティブな行動をとった時に、褒めるでもなくその行動を言葉にして伝える
これによって、この行動は承認されているのだと相手が感じることがある
結果承認
「〜はすごい成果だね」「〜してくれて助かったよ」のように、結果に対して主観を込めて伝える
おそらく、オンボーディングは最初の段階の「存在承認」にあたると思う。新しく入ってきたメンバーに対して「あなたに関心があり、存在を認知して、受け入れていますよ」というメッセージを、様々な行動を通じて相手に伝えるイベントではないだろうか。
私が先述のオンボーディングで受けた、具体的な承認行動を箇条書きで書き出してみる。
PdM から事業やプロダクトの説明を受けた
ランチに誘ってもらい、ごはんを一緒に食べた
「アニメや漫画が好き」という自分の趣味を引き出してくれた
チームのセレモニーに加えてもらった
歓迎のコメントをもらった
お互いに自己紹介をした
初めてのデザインのアウトプットに対して反応があった(これは2段階目の行動承認かも)
リアクションスタンプではなく、何らかの具体的な言葉による反応だった (リアクションだと相手が何を考え、どう感じているか分からないこともあるので、承認が成立するには言葉による反応が重要だと思っている)
「途中経過を早めに共有してれた」とポジティブなフィードバックを受けた
当たり前すぎて忘れがちだけど、挨拶
こうやって書き出してみると、特別なことは何もなくて、人として当たり前の行動も多いし、オンボーディングにおいて多くの会社やチームが普通にやっていることだと思う。
でも、こうした様々な「普通のこと」を通じて「自分は受け入れてもらえているんだ」と実感できる。オンボーディングは会社の様々な情報にアクセスしたり、説明を受けたり、ツールの使用権限を付与してもらうなどの手続き的なものを想起しがちだが、それらも含めて、「結局何のためにそれをやっているのか」が一番重要だと思う。
「Figma のアクセス権限がないと仕事ができないから」と言われたら、もちろんそうなんだけど、オンボーディングには機能的な側面と情緒的な側面がある気がしていて、情緒的な側面、具体的には「承認」が実はかなり重要なんじゃないか、というのがこの記事で伝えたいことだ。
全ては相手を受け入れるための手続きであり、承認行動の一つではないかと思う。
「はじめてイベント」と承認行動
もう一つ、承認を考える上で重要な要素だったなと思うことがある。私が受け入れられたと感じたのは、承認を受けたからだと前のセクションで書いた。冒頭のオンボーディング体験記の中には、大きく分けて3つの「はじめてイベント」がある。
初めて出社した
初めてチームセレモニーに参加した
初めてアウトプットを出した
既存メンバーにとっては慣れすぎて当たり前のことでも、新しい人からすると緊張する場面もあると思う。新しいメンバーにとって、ゲームのイベント発生の感覚に近いと思ったので「はじめてイベント」と表現してみた。
こうした「はじめてイベント」に対して、既存メンバーが承認行動を適切に取れると大きな効果を発揮するかもしれない。私は3つのはじめてイベントを通じて、PdM やメンバーから承認を受けることで「受け入れられた」と感じた。実際、私にとってこれらの初回体験のインパクトは大きく、その後の自分の行動にポジティブな影響をもたらしてくれたと思う。
相手を萎縮させない
以前、別の環境で先に挙げたような承認行動が「無」に近い状態を経験したことがあり、なかなかしんどかった記憶がある。会社は一日でも早くその人に成果を出してほしいと思っているだろうし、本人も意思を持って選考を受けて入社を決めた会社 (もしくは異動先の部署やチーム) なのだから、成果を出したいと思っているだろう。その大前提として、「あなたの存在を認知して、受け入れている」というメッセージがないと、自分が歓迎されているのか分からず、心理的にハードな状態になってしまう。
相手に何かを求めるのなら、その相手が行動しやすい状態を作ることはとても大事だと思う。オンボーディングにおいては、相手の存在を承認するという人として当たり前のことをやるだけなので、挨拶したり Slack に反応したり、ランチに誘ってみたり、自分が無理なくできる範囲でやればいい。そうした個々人のちょっとした行動の積み重ねが「受け入れられている」という実感を作り出すはずだ。