映画、アイドル、バンド、海外、インスタレーションアート、小説。琴線に触れる作品にたくさん出会えている我が人生、なかなか幸せだと思っている。
ただその中に好きという気持ちだけが膨らみ肝心な作品の内容をこと細かに思い出せないものがいくつかある。そしてその手の作品は大抵の場合、絶版になっていて見ることが叶わないものが多い。
そんな「大切だけど思い出せない」ジャンルの中に雪が降るたびに思い出す作品がある。
【Overcoat and Mitten】
主演は若かりし頃の田中圭さんと美波さん。監督は日向朝子さん。
たしか監督が学生時代に撮影したものだから一般流通はしていないし、見たことある人も少ない、正真正銘幻の作品だ。
私がこの作品を見たのは学生の頃スタッフとして携わっていた国際学生映画祭の試写だった。
まさに一目惚れ。技術的に特筆することは特にないシンプルなラブストーリーなのだけど、好きに理由はないという理屈のまんま、私はこの作品がとにかく好きだった。スタッフの特権を使って1人で何度も繰り返し見た。
今この作品について思い出せることを書き並べてみよう。
まずはシチュエーション。タイトルから分かるように季節は冬―というかクリスマスだった。よくある小さなアパートの部屋で完結するワンルームドラマで、内容はおとぎ話のようなラブストーリーだった。ベタな日本語を使うなら、クリスマスに起きた奇跡、というのが当てはまる。
そして残念ながら私にはこれ以上の記憶が無い。
ただ今でも映画を観たあとの指先までしあわせに満ちた感覚や、いい映画に出逢えた喜びは覚えている。田中圭さんのやわらかな空気感。美波さんの可愛らしさの中に潜むミステリアスさは同性ながら恋してしまいそうだった。
雪が降る夜はこの作品を思い出す。
コートとミトンを出すたびに【Overcoat and Mitten】という作品にもう一度出会いたいと思ってしまう。
思い出せなくても大好きという気持ちはあれから1度たりとも色褪せてないから。