図書館の本棚には覇気がない。
さまざまな人の手に取られて、本のカバーはくたびれている。数年前に話題になった本と、十数年前に話題になった本と、一度も話題になっていない本とが、脈絡もなく並んでいる。小説の棚であれば著者名の五十音順にしたがって。ジャンルの区分はない。人気作家の代表作がひと通り揃っているわけでもない。書店の棚で文字通り幅を利かせている作家の本はむしろ少なく、あまり馴染みのない作家が多作であることを思いがけず知る。実用書の棚はさらに文脈が消失している。情報がそれぞれの時間で固定されてバラバラにされて再配置されている。書店にはもう置かれないだろう本。一時は持て囃され、いまは忘れ去られたバズワードを解説する本。内容は古びてはいなくても装丁やタイトルに時代を感じる料理本。
図書館の本棚には自由がある。商売からも文脈からも解放された自由。ただ、ある。評価されることから外れ、順序に従って並んでいる。