大回り乗車をした日

ffi
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公開:2024/11/4

仕事の締切があるけど明日も休日だからなんとかなる、天気が良い、ひとりで自由に過ごせる。旅行にいくなら今しかない、ということで大回り乗車をしてきた。

鉄道系Youtuberの西園寺さんの動画をモデルルートにして、新大阪駅から京都方面に向かってスタート。新大阪→京都→近江塩津→草津→柘植→加茂→大阪というルートになる。

新大阪から新快速に乗ると、25分で京都に着く。東京駅から横浜駅まで東海道線で行くくらいの感覚。京都駅で乗り換えて、湖西線で琵琶湖の西岸を北上していく。進行方向の左側の座席に座ってしまったので、車窓の湖はあまりよく見えない。

琵琶湖とは反対側の車窓を眺める。湖西線は高架になっているところが多く、住宅地の2階建て屋根よりも高いところを走る。こんなにたくさんの瓦屋根を眺めるのは珍しいかもしれない。線路沿いに小さめの墓地があるのを見る。数十基ほどの墓石が並んでいて、数台分の駐車場が併設されている。知らない土地に知らない街があって、たくさんの人が暮らしている。

山間へ向かって伸びる鉄道の線路とホーム。青空が広がっている。

琵琶湖の北端にあたる近江塩津駅で、北陸本線の米原方面行きに乗り換え。米原、彦根、守山と進んで草津駅で乗り換える。そのまま乗っていると京都に向かってしまい、大回り乗車のルールを違反してしまう。

このルートだと琵琶湖を完全に一周することはできない。琵琶湖といえば『成瀬は天下を取りにいく』の舞台の膳所駅に行きたいものだが、それは大回り乗車だと難しい。また別の機会に。

草津駅には駅構内にセブンイレブンがある。接続のいい列車はひとつ見送って、トイレと食事の休憩。

駅のホームと、ホットコーヒーの入った白いプラスチックカップ

草津線は山のなかを走っていく。駅が近づくと住宅地がある。都会と比べればずいぶん小さな駅だけれど、そこには商店があったり食事や酒を出す店があったりする。駅前のロータリーのような場所の小さな空き地で、リフティングをして遊んでいる親子がいる。すぐ近くの別の公園でも、小さな子どもとその家族がいる。どちらの父親もたぶんわたしと同じくらいの年齢のようだった。

知らない場所に、知らない人生がある。彼らは、わたしがこの場所を電車で通ることとはまったく関係なく、ずっと前から生きている。たぶんこの街で生まれ育ち、学校に行き、おそらく何度か恋愛をして、働いて、誰かと結婚して、たぶんこの街で子どもが生まれて、その子どもといっしょに広場でリフティングをして遊んでいる。それはわたしの時間とはまったく関係なく行われてきたことで、いまわたしは、たまたまこの時間に電車に乗って通り過ぎながらそれを見る。

駅のホームの階段の上に、赤い装束を付けた忍者の姿がある

柘植駅は三重県伊賀市にあたり、駅の構内には忍者がいた。柘植駅から加茂駅へ向かう電車は非電化区間とのこと。鉄道のことはよくわからないが、路線バスみたいな雰囲気だった。整理券を取って料金精算するように見えて、大回り乗車でどうしたらいいのか、ちょっと焦る。

夕暮れの始まっている空と、まっすぐ伸びていく線路

加茂駅は比較的大きな駅だ。「大阪環状線」と書かれた電車が停まっているのを見つけて安心する。ここからは乗換なしで大阪駅を目指す。

奈良駅で外国人観光客がたくさん乗ってくる。さすがに湖西線や草津線には観光客はいなかったなと思い出す。

天王寺を過ぎたあたりで、車内に赤ん坊の泣き声が響き始める。一瞬泣き止むこともあるが、すぐにまた泣き出してしまう。目を上げると、すこし前の座席の外国人の家族の子が泣いているのだった。まだ1歳に満たないくらいだろう。白人の赤ちゃんも泣くのだよな、と思った。当たり前だけれど、身近にいないから考えたことがなかった。どこの国の赤ちゃんも泣くし、どこの国の家族も赤ちゃんをあやす。

新大阪駅から170円分の切符

7時間ほどの移動のあいだ、ほとんどずっと本を読んでいた。純文学系の短編集を1冊と、翻訳ミステリー小説を2冊、カバンに入れておいた。周りの環境に合わせて、読む本を変える。ずいぶん捗った。

大阪駅の改札を出る。人がとても多い。このたくさんの人たちのそれぞれに、それぞれの人生がある。目眩がする。

いつもの電車に乗る。最寄りのスーパーで豚バラ肉や食パンを買う。出掛ける前に干していった洗濯物を取り込む。夕飯をつくってひとりで食べる。しばらくすると妻が出張から帰ってくる。電車で読んでいた本の続きを読む。そうやって一日が終わっていく。

@ffi
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