当然ながら、わたしにもアンコンシャス・バイアスがある

ffi
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公開:2024/5/20

顧問契約をしている税理士事務所はおなじオフィスビルに入居しているので、ちょっとした相談はアポなしで訪問してもいいことになっている(とても便利だ)。先日まで担当してくれていた方が急遽退職されてしまったため、いまは決まった担当者がいない。この税理士事務所で他にどんな人が働いているのかはよく知らない。

そういう状況で事務所のドアをノックすると、見覚えのない若い女性が現れた。相談しにきたのですがと話しかけたわたしは、この女性を事務スタッフだろうと無意識に思い込んでいる。前担当者の引継ぎに出てきた所長さんが相談を聞いてくれるだろうと思い込んでいる。

どういったご相談ですか?と尋ねられ、例の定額減税のやりかたを確認したくて……とわたしは話し始める。女性は誰かを呼びに行くのではなく、そのまま本格的にわたしの話を聞く。あっ、この人は解決できる人なんだ、とわたしは気付く。事務スタッフではなくて、有資格者か科目合格者なのだなと思う。そうか、と思う。

『虎に翼』では、主人公の寅子が日本初の女性弁護士となるも依頼人がつかない状況が描かれる。「女性に依頼するのは……」と言われてしまう。そのシーンを思い出す。

あるいは、アンコンシャス・バイアスについて説明されるときに使われる有名なクイズを思い出す。

ある日、父親とその息子である少年が車で出かけたが、途中で交通事故に遭ってしまった。運転していた父親は救急病院への搬送中に死亡。息子の方は意識不明の重体で救急病院へと運ばれた。

病院の手術室で、運び込まれてきた少年を見た外科医はこう言った。

「ああ…この少年は私の息子です!」

ひとつ、わたし自身の弁護をするならば、普段この税理士事務所を訪問したときに受付で対応してくれたのは、別の女性なのだ。その方に話しかけたときは大抵「あっ、担当の〇〇を呼んできますね」と言われていたのだ。だから、今回も玄関先にいた若い女性を事務担当の人だと思ってしまった。

女性の税理士もいる。当たり前だ。これまでの職業人生のなかで女性の税理士や会計士に会ったこともある。女性には依頼したくないなんて思うはずはないし、仕事がぬるいかもしれないなんてことも思うはずがない。それでも、わたしは直感的に「この人は別の税理士を呼びに行くだろう」と思ったのだ。

わたしにもアンコンシャス・バイアスはある。当たり前だ。ないわけがない。

無意識に思い込むこと自体は、悪いことではないと思う。わたしたちはそうやって認知リソースを下げながら活動をスムーズにさせているのだろうから。間違えたときには速やかに修正する。反省する。ちゃんと覚えておく。それが大切なのだと思う。この文章は、そのために書かれた。

@ffi
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