コメダ珈琲店で作業をしていると、近くの席に高齢の男性がやってきた。メニューを開きながら「ご飯ものはないのか」と店員に聞く。「お食事はこのあたりになりますが、あっ、ご飯というのはお米のことですか?」と店員が答える。男性は「ご飯と言ったらお米に決まっている」と言うので、わたしは「嫌な老人だな」と思う。「当店にはお米のメニューはないですね……」と店員が答え、男性は「それでは選び終わってから注文する」と言う。店員は呼出ボタンの場所を確認してから帰っていく。
嫌な老人だな、と思ったわたしは、「でも、ここは大阪だったな」と思い直す。大阪のコミュニケーションはわたしが慣れているものよりも幾分荒い。「ご飯といったらお米に決まっとる」という言葉は、軽い冗談の範囲だ。むやみに他人にケチを付けるものではなかったとわたしは少し反省する。
しばらくして老人が呼出ボタンを押す。たまごサンドとホットコーヒーを頼んでいる口調は紳士的でていねいだ。「サンドイッチには辛子マヨネーズを使っていて、これは普通のマヨネーズに変更できますがどうしますか?」と先ほどとは別の店員が男性に尋ねている。「なにも付けなくてよい」と男性は答える。健康に気をつけているのかもしれない。
男性はスポーツ新聞を読みながら食事をしている。わたしはSpotifyで音楽を聞きながら作業を続けている。男性が店員を呼び止める。「このたまごサンド、おいしかったよ」「ありがとうございます」「この豆の袋は注文したらもらえるの?」「はい、別途ご注文いただけます」「じゃあ2つちょうだい」「ありがとうございます」
ここは大阪なんだなとわたしは思う。