Kと出会ったのは、大学の社会福祉サークルだった。男子校出身で工学部のKが、なんでボランティアに興味を持ったのか、そういえば知らない。
Kとわたしは妙にウマが合い、卒業後も半年か1年に1回くらい会う関係が続いた。「そろそろやろうぜ」とセフレみたいなメールが届き、そのへんの居酒屋で終電まで飲んで帰る。
今季の人気ドラマ「いちばん好きな花」では主人公の多部未華子ちゃんと男友達の仲野太賀くんの男女の友情が描かれている。
ドラマの2人はカラオケボックスで会い、仲野太賀くんが恋人からもらったネクタイをけなしたりもしていたけど、あれは「男女の友達」の風上にも置けない危ないやつだと思う。
友達だからこそ人目のない場所で2人きりにならないし、恋人について惚気けることはあってもディスらない。わざわざKと話し合ったことはないけど、そんなのは快く送り出してくれる恋人への最低限のマナーだと思う(し、Kとは何もなかったけど、男女の友情というのは、「何があっても間違いは起こらない」ということではない)。
先に結婚したのはKで、わたしは二次会にだけ出席した。めちゃくちゃダサいタキシードを着たKは、ピンクのドレスを着た新婦を伴い、「2億4千万の瞳」を熱唱しながら登場した。今思い出しても過去一、ぶっちぎりで面白い結婚パーティーだった。
わたしは1人だったので、Kはわたしを工学部時代の友人たちと同じテーブルにし、周りの数人には申し送りをしておいてくれた。
そこで隣になり、出会ったのがTだった。Tは一途なKと違って軽薄でやや女癖が悪く、でも根がマジメでどこまでもアホなところはよく似ていて、以降はTと3人でも会うようになった。
30になる前にはTもわたしも結婚し、Kは2人の娘の父親になったが、愛娘の写真入りの年賀状には相変わらず「そろそろやろうぜ」と書いてあった。
長女がお腹にいた年なので、2010年。11月のある日、ポストに喪中はがきが入っていた。夫Kが亡くなったという、Kの妻からのはがきだった。
愛娘の成長を見れなくなるよりつらいことがなんだったのか、今もわからない。
Tとは数年に一度会う。
「2億4千万の瞳」の話や、「おまえと一緒におると俺も留年してしまう」と大学4年のときにTがKに絶縁された話、Kがバイト先の倉庫で40代の主婦に迫られた話で笑い、「あいつなに死んどんねん」と言い、あとは内容のない話を続けて別れる。
前に会ったときは、15時から飲み始めたのにあっという間に終電で、たぶんTとわたしはめちゃくちゃ仲が良い。
でも、Tはいまだに、Kの友達という表現がしっくりくる。聞いたことはないけど、Tも、わたしをKの友達だと思っている気がする。2人でいても、3人でいるような感覚が常にある。
要はわたしたちは、Kが遺した形見同士なのだ。
また11月がやってきた。ポストに喪中はがきを見つけると、今もひやりとする。