
僕は好きなものと割と距離を取ってしまう。僕なんかが踏み込んでしまっていいのだろうか、浅はかな知識で僕の「好き」という胡散臭いカテゴリに突っ込まれるのは不快じゃないだろうか、僕はこれ以上「好き」に殉ずることができるのだろうか、そもそも「好き」って何だっけ、などと考えてしまい、一歩も二歩も引いてしまう。
なので、僕のなかに純粋無垢な「好き」があるかというと、たぶん数えるくらいしかない。色々と好きだとは思うんだけれど、公然とそれが好きだと言えるものはあんまりない。怖い。その分野においてオタクの極致みたいな姿勢を持っていないと「好き」と言ってはいけない気がする。本当はそんなことはないとは分かっているのだが。
いつの間にか、水瀬いのりさんの動向を追っている自分がいた。初めて出会ったのは「Re:ゼロから始める異世界生活」のレムなのだろう。たぶん。18話は鬼がかっていて、今でもたまに最大級に疲弊したときに見る。
始めは何が自分に引っかかったのか意識できなかった。声が好きかと言われればそりゃ好きだけれど、特別何が好きなのか説明ができない。他には情報がなかったから、その時点ではそれ以上は進まなかった。
いつの日か、僕はラジオを探しているシーズンがあった。その前は好きなVtuberを探そうとしていた。していたのだが、見つからなかった。どうやら僕はゲーム実況が全く好きになかった。Vtuberは仮初の体しかもたぬので、どうしてもコンテンツを作ろうとするとゲーム世界が必要になるのだろうとは理解している。
でも「聞いてて幸せな声で」「面白いコンテンツ」って考えると、それってラジオじゃね? と思ったのだった。「聞いてて幸せな声で」っていうと、それって声優さんじゃね? と思ったのだった。
そしてYouTubeで探してて、たどり着いたのが水瀬いのりさんの「MELODY FLAG」だった。率直に言って、まずめちゃくちゃアイキャッチが可愛い。
内容も大好きだったし、耳も幸せだった。声優をしていると度胸やトーク力がつくのか知らないけれど、彼女のトークは尽きることなく、ラジオをその可愛らしい声で埋めていた。またどこか機知を感じさせて、人を笑わせる視点が常にあったし、明るくて僕の心を照らしてくれた。
またちゃんと構成作家が作っているのも良かった。雑然としておらず、プログラムできっちり30分で終わるし、よくコントロールされていた。彼女のファンが求めているのは、まさに「彼女に喋ってもらいたい」だということがよく分かったし、それについては完全に僕も同意見だった。
僕は月曜日に彼女のラジオを聞くのが日課になった。愛の反対は無関心とはよく言ったもので、逆に関心が強ければ無知による恐れは減り、好きに繋がっていく。彼女の出演するアニメを優先的に見るようになり、彼女の演ずるゲームのキャラクターはスタメン入りした。
この辺りで僕は思った。
めちゃくちゃ好きじゃん、と。
気がつけばめちゃくちゃ好きだった。例えばこの前のアニメでいうと「山田くんとlv999の恋をする」のヒロイン「アカネ」の声優なのであるが、「山田くん」がカッコよすぎて、「え、いのりん好きになっちゃうじゃん、ヤバいじゃん」と思った。色々情報が錯綜しているし貫通しているし混乱しているし、我ながら凄く気持ちが悪い。
そこに至り、むしろ一線を超えるべきだと思った。そこまで至れるのはむしろ僕の中では稀である。いずれ自然な心の流れでファンクラブに入るべきではないかと思い始めていた。
僕は「ファンクラブ」というものに入ったことがなかった。何をするかも分からないし、正直ファン同士の交流もできないかもしれない。(弱気)なので、いのりんのファンの中核であるファンクラブというものに自分が入っていいものか、正直半年以上は迷った。ファンクラブのサイトを開いては閉じる日が続いていた。本当に恐ろしく気持ちが悪い。
いのりんのファンクラブは「いのりまち」という。ファンは「町民」と呼ばれる。ラジオでも「町民のみんなは〜」といのりんは親しみを込めていう。僕はそこには入っていないのだ、と思うと少し寂しかった。
まぁとはいえ死ぬわけではない。決め手にかけて、僕らの間は(気持ちが悪い表現)一定の距離を保っていた。そこに転機が訪れたのは、いのりんの全国ツアーが始まるというニュースであった。
今年はアーティスト活動10年の節目で過去最多の全国7都市8公演である。強いて言うなら、とんでもなく行きたいと思った。行くべきである。あの歌声をリアルで聞きたい。聞くべきである。そう思った。そう思ったのだが、チケットは買うとして、果たして取れるだろうか。
やっぱりそこは自分より猛者がチケットの優先権を持つべきである。いのりんの町民が持つべきであるということは僕にも分かる。そう考えると、ファンクラブ内でどう考えてもチケットの先行販売がされるのは妥当である。
う゛〜〜〜〜〜〜〜ん!!!!
そうして僕はもう迷うことをやめた。もう自分のなかでも言ってもいいようだった。「僕はいのりんが好きなのだ」と言わざるを得なかった。認知するしかなかった。だから僕は入ったのだ、ファンクラブに。生まれて初めて、ファンクラブというものに。

会員番号は念のため隠してあるけれど良い数だった。水瀬の3と7と、僕の5が入っていたということは伝えておこう。(うわぁ)まだファンクラブ内のコンテンツに何があるか分からないのだが、これからじっくり拝聴していこうと思う。
自分のなかで一線を超えたら、気持ち的に凄く楽になったというものがある。声優グランプリとか買いに行くべきだと思ってる。いや、だってほら、僕、いのりんのファンだし。そんな気持ちである。ライブ当たるといいなぁ。それまでにさらにファン力を高めておきたい。新しい世界を開いたことに、少し緊張している。
#エッセイ #いのりまち #ファンクラブ #水瀬いのり #いのりん