わたしはエルフだから人間のことがよくわからなくて、"人間を知る"ために旅をしているんだ。その途中で"正欲"(朝井リョウ)を知ったんだよ。
別にエルフではないが、「ブイズのメスは原型でイケるがヒトのオスにも恋愛感情(後述)を抱けないわけではない」(でもサーナイトは守備範囲外、なんで?)程度の何とも言えない性癖歪み具合故のいろいろな関心と機会が重なったので、最近映画化された「正欲」を見に行った。貴重な休みに予告からして辛気臭い映画を見るのに付き合ってくれた後輩にまずは感謝したい。
映画の率直な感想としては「腑に落ちないがその腑に落ちなさが良い作品」だった。大体は中途半端にネタバレを見て盛大な勘違いをしていた自分のせいだが……
元々「寄り添う気になれないマイノリティ」問題との関連から原作小説に関心があり、あらすじと大まかな内容は目にしていたのだが、そこから何故かイケメンダンサー男子大学生がペドフィリア(実際は主人公?たちと同じ水フェチ)なのだと勘違いしていた。自制して手は出さずに鬱屈としていたのが、なんやかんやあって手を出したペドフィリアに巻き添えにされて「手を出してなくてもダメなんですか」的な話になるのかと思いきや、「子供になんてもちろん興味は無いが水に欲情する『真のマイノリティ』の3人が良い感じの関係を築けそうだったのに、邪悪なペドフィリアのせいで瓦解しました、あーあ」な展開で終わっていたのが個人的には残念としか言いようがなかった。水に欲情したところで、公衆の蛇口で致すとかでもしなければ加害性は対人性愛未満なわけで……
とはいえこの全体のストーリーによる「そこは『理解』しなくていいんだ」感も作者の問題提起かもしれないので、非難する気は無い。まあ自分が予想していたような話だったら映画化なんかできないだろうし。
もう1つの腑に落ちなさは水フェチ偽装夫婦の特に妻の方がやたらと2人の関係を「恋愛じゃない」と言い張る点である。その度に脳内の千鳥が「それはもう恋なんよ」とツッコミを入れていた。これがあまり「普通」の価値観ではない自覚はあるが、自分は性欲と恋愛感情は「多くの場合密接に関連するが根本的には別物」だと考えている。相手の存在をかけがえのない、「いなくならないで」ほしいものと思い、何ならハグ程度の身体的接触を心地良く思う妻の感情は、自分の感覚ではかなり「性欲」に近いものも含んだ恋愛感情としか解釈できなかった。水フェチという同志ならそもそも新聞に載ってた蛇口盗みおじさんがいるわけで、そのおじさんにはあまり関心が無さそうだし彼女疑惑が生まれたら「水フェチ兼対人性愛」の可能性をすっ飛ばして窓ガラスカチ割るってまあまあ愛が重いですわよ奥さん。「水に対する性欲を媒介にしたラブラブカップル」として胸張っていいじゃないですか!ジョジョ7部のルーシーとスティーブン氏も身体的なあれやそれやは無いけどラブラブカップルですよ!(ゴリ推し)
この点に関しては浅原ナオト先生が「彼女が~」で「相手を愛おしく思っても性的に興奮するかは別(だから困る!)」というシーンを克明に描いていたのが、少なくとも自分にはかなり革命的だったし救われたのを思い出した。逆方向なら「波多野結衣氏の演技に興奮しても波多野結衣氏に恋愛感情を抱いたことにはならない」とか言っておけばなんとなくわかってもらえる気がするが。しかし人間にとって「実行の是非はともかく、そういう欲があるという事実を認めること」「愛おしく思うことと性的興奮が起きることの切り分け」がそんなに難しいのなら、自分はエルフと言っていいのかもしれない。
そんなこんなで「文句」は多々あるわけだが、こんな文句が出るほど内省を促す素晴らしい作品だったということは改めて強調しておきたい。水がテーマに深くかかわってくることもあり、映像も美しかった。興奮はしないけど水音系のヒーリングBGM動画は実は結構聞いてるんすよね。