フグの唐揚げが好きなので、フグのドキュメンタリー映画を観た。フグやフグ料理に魅入られた人々の話が最初から最後までたっぷり詰まっていて、めちゃくちゃ面白いのと同時に、ちょっとした狂気も感じた。
メインエピソードの一つは、フグの調理免許取得を目指す女性たち。試験では、食べられる部位と食べられない部位を見極め、正確かつ超スピードで捌く必要があるのだけれど、手際が良すぎてちょっと怖い。フグの毒性に関する解説パートによると、日本で獲れて食べられるフグは22種類?で、でも世界中には何百種類もフグの仲間がいて、しかも食べられるフグも地域によって違うとか、毒のある部位もフグによって違うだとか、季節?によるとか、とにかく変わった生き物すぎる。解説動画を見ながら、あまりの初見殺しに気が遠くなりそうだった。これだけトラップだらけのフグを、それでも食べたいからとトライアンドエラーを繰り返した結果が現代のフグ食文化なのだなあ。一部の日本人たちが、あまりにもフグに本気すぎる。
食べられない部位の中でも、卵巣と肝については例外がある。卵巣は塩漬けにすると毒が抜けるので、その特殊な処理方法は石川県でのみ許可されていて、なぜ毒が抜けるのか詳しいことは分かっていないけど抜けるからヨシ!というのは、色々な事情を感じられてちょっと面白い。肝についてはまったく知らなかったのだけれど、大分県の飲食店では特に説明なく薬味として提供されると聞いて本当に驚いた。特定の地域なら良いんだなあと思ったら、別に良くないらしい。法律で明確に禁止されているのにもかかわらず…ということで、料理人や研究者のみなさんは口々に「そうは言っても肝は禁止されてますからね…」と苦々しい顔をしていた。ここでトピックスになるのが、「フグの無毒化」。餌まで徹底的に管理された養殖のフグは毒を持たない、というのはいつかニュースで見たこともあるけれど、これに対するフグのプロフェッショナルたちの意見は結構「否」に寄っていた印象がある。99.999%毒がないと言っても、次に食べた人が当たってしまう可能性がゼロでないなら食用にすべきでない、というのは最もな意見と思う。一方で「毒があるからフグなのだ」というような言葉もあったような気がして、フグを食べるには毒を乗り越えてこそ!みたいな気持ちを持つ人もいるのかもしれない。感情だ。
本作にはフグ料理にかかわる様々な人たちが登場するので、お仕事映画としても観ることができて良かった。鮮やかな手つきでリズミカルに次々とフグを捌き続ける人、市場を駆け回ってフグを売りまくる人、フグの毒性を調べる人、フグの博物館を作った人…世の中には、本当にいろいろなプロフェッショナルたちがいる。自分が普段関わることのない世界を覗くのはとても面白いので、こういう映画があると嬉しい。本作とはジャンルが違うけれど、フレデリック・ワイズマンの「ボストン市庁舎」をふと思い出した。ボストン市職員の働く姿をひたすらに追った4時間超えのドキュメンタリーは、お仕事映画の頂点かもしれない。昔シネマカリテで観たのが懐かしい。
フグの凄さに終始圧倒される映画だった。フグ食べたいなあ〜