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「DIGGER」のはなし

fuguno_karaage
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公開:2026/10/11

気候変動に関するさまざまなニュースを見るたびに、何年か前に公開された「ドント・ルック・アップ」を思い出す。近い将来隕石が衝突すると判明した世界を舞台に、事実を直視する者たちや見ようとしない者たちを皮肉混じりで描いた、ブラックなユーモアに満ちた作品。ああもうだから言わんこっちゃないと呆れながら笑って観ていられるうちはまだマシで、でも最近はある側面においては現実が創作を上回りつつあるような気もしていて、フィクションをフィクションとして楽しめる世界であってほしいと思うばかり。

トム・クルーズ主演の本作、何度か予告編を見たもののストーリーが全く分からず、確かな情報としては何かを掘る白人男性が出る?ことくらい。地面にめちゃくちゃ穴を掘るのかなと思っていたら、蓋を開けてみれば石油、しかもグリーンランドや北極を拠点にした油田会社の社長さんだった。序盤でメタンガスによる爆発、氷河が割れて北ヨーロッパに津波が押し寄せる恐れが…というところで、この作品が描こうとしているものがなんとなく分かり出して、頭の片隅にドント・ルック・アップが浮かぶ。ドナルド・トランプみたいな大統領を中心とした、男だらけの会議風景。あーはいはいそういう映画ねと分かり出したところで急に演技が中断、美術スタッフや演出家がバタバタと走り回って場面転換を行っていて…これ、劇中劇だったんだ!?と、スクリーンで起きていることに終始振り回されていく。だから猫があからさまに作り物だったのか、と序盤に抱いていたいくつかの違和感が解消される。あの老いた猫の作り物感はすごい。

どの場面が記憶に残っているかと言えば、一つ挙げたいのはやっぱり法廷?でのシーン。リズ・アーメッド演じる科学者が大衆の前で事実を語ったあとの、ディガーの大変挑発的なスピーチは、吹っ切れすぎてちょっと面白くなってしまっている部分もありつつ、作中の聴衆にもこちら側にも刃を向けている。不自由のない便利な生活を望むのは誰、便利な生活のための石油を望むのは誰だと、サプライヤーである彼は問う。原油の供給不安で様々な産業に影響が出ている2026年の今、別ベクトルながら映画の中からそのような台詞が飛び出したことに少し驚いた。それから、小さなモニターが映していた津波の映像、街が飲み込まれる様子には既視感しか無かった。あれは作り物の映像だけど作中においては現実で、そしてこちら側にとっても全くのフィクションでは無いのではと、氷河が起こした大洪水のニュースを見て思う。

単なる劇中劇と思っていたら、その劇の内容自体は実際の出来事に着想を得ていたということが、終盤になってようやく分かる。これは何のために、誰に向けて作られた舞台なのか。海底へ沈んでいくディガーに歓喜の声を上げ、怨嗟の声を浴びせる観客たちは誰なのか。舞台を観ている彼らはなぜ、濡れているのか。

劇場を後にする観客たちは、何かから彼らを守るハイテクな防護マスクを付けて、彼らにとっての現実である水浸しの街へと帰っていく。濁った水に浸かる人たちの顔にマスクは無く、ここでも格差は続いているのが分かってやるせない気持ちになる。エンドロールで流れてくる鳥のさえずりでいくらかほっとしながら、でも何とも言えない後味が残っているような。

観てから一晩経って改めて思い返すと「変な映画」という感想になるけれど、めちゃくちゃ面白かったのは間違いなくて、やっぱりそれはトム・クルーズの超絶演技力によってはじめて成立していたような気がする。もちろん他の俳優さんも凄くて、特にあんなに喧しく喚くザンドラ・ヒュラーを観たのは初めてかもしれない。とても良かった。あと予告編でジェシー・プレモンスの名前を見た時、「シビル・ウォー」とかの印象が強すぎてまさか今回もヤバい役なのかなと思っていたけれど、全然そんなことは無かった。良かった。シビル・ウォーの赤サングラスは本当に怖くて嫌。

日本でヒットするかはちょっと怪しいけれど(津波の描写もかなりリアルだし)、個人的は今年この映画を観られて良かったな…という気持ち。もう一回くらい観に行きたいかも。

@fuguno_karaage
映画と美術館とポール・シニャックの描く景色が好き