移動紀行文③(ドバイ~ベネチア)

3ヶ月近く経過してしまったけれど、こちらの続き。

ドバイ空港朝6時。緊張や眠気で機内食を満足に食べられなかったため、それなりに空腹…。空港で何か買って食べてみたい。しかし初めての国際空港で、全くなじみのない通貨(ディルハム)で、現金はユーロと日本円しか持っていない状態で注文する勇気がなかなか出ない。日本にいる時からは考えられないくらいうじうじしたまま過ごす。やっと勇気を出してケバブでも食べようかと注文の列に並んで、並んでいる間にスマホで調べて計算をしたらケバブが3000円くらいして「無理…」となり撤退。もっと、もっとおやつをもってくるべきだった。カロリーメイトでもいいから。マリービスケットでいいから。

ちなみに自分の歩いたエリアでは、ケバブやビリヤニ等を売る店のほか、KFCとマクドナルドがあった。空港のどこかにあるというシャワーも探したかったが、少し歩いただけでくたくたで諦める。飲料水だけはどうしようもないのでエビアンを買う。700円ほど。ペットボトルの水1本すらパスポートや搭乗券を見せろと言われるなんて知らなくてやりとりに手間取る。

幸い乗り継ぎ便のゲートも近くにあり、水を飲んでひたすら時間を潰して過ごす。wifiは拾えたので、すがるようにTwitterに生存確認を書き込む。日本語が恋しい。

ここからベネチアは6時間ほどのフライト。さっきの14時間以上のフライトに比べたら半分以下だ、今日の午後の明るいうちに空港に到着することができる。予定どおり出発した便は、なんと隣が空席!小躍りしてしまう。肌触れ合う範囲に人がいないと、心理的な負担感が全然違う。お待ちかねだった最初の機内食(軽食で、パニーニっぽいサンドイッチかブルーベリーデニッシュ、コーヒーか紅茶)を明るい気分で完食。

少し寝たり、映画を選んだり。「PLAN75」が入っていたので見かけたが、機内で観る設定としてしんどすぎて早々に離脱。そうこうしていたらまた機内食。ここではインド風ベジタリアンミールを頼んでおいた。道中8回の機内食の中で、これが一番食べやすくて口に合っていた。左上の、じゃがいものスパイス和えみたいなのがシャキシャキしてておいしい。カレーも(あたりまえだけど)本格的。ただ、何の材料を使ってるかわからんチーズ模造品(中央の四角いトレーの真ん中に乗ってるやつ)だけはダメだった。石鹸の見た目で石鹸の味がして、いまだに思い出すとウウッとなる。あれはなんだったのだろう…。

14時過ぎ、ベネチア空港に到着。もう一週間後まで飛行機に乗らなくていいんだぁー!!という喜びに包まれた。フライトだけで20時間以上、ここまで24時間以上を移動に使っている。早くシャワーを浴びて寝たい。が、ここから人生で初の入国審査である。

この出張の少し前にTwitterで、アメリカに女性一人で入国しようとしたところ入国審査で足止めされ、結局日本に送り返されたというエピソードが話題になっていた。売春や出稼ぎなどを警戒してのことらしく、アメリカに比べればヨーロッパの入国審査はまだまだ日本人にゆるいので心配いらないといったコメントも書き込まれていたが、英語でスムーズに受け答えができないことが予想される私はビビりまくり、とりあえずあらゆる書類を印刷してファイルにまとめた。演題の採択通知メール、自分の名前が載った抄録、往復の飛行機チケット、宿泊先の予約完了メール、等々。いや、マジで一週間経ったらきちんと帰るので入国させてください。

乗客をさばく空港の職員にWhere are you from? と聞かれた私は意気揚々と「Non-EU!」と答えて、じゃあこっち、と入国審査の長蛇の列に並ばされた。これがまあまあのチョンボである。Japanと言っとけば、パスポートを見せれば、自動ゲートの方を案内されてICパスポートをピッとかざして一瞬で済んだかもしれないのに…。イタリアの空港に自動ゲートがあるなんて知らず、日本の出入国の時しかIC旅券は使わないんだと思っていたのだ。知っておきたかったあああ。

さて入国審査の列。50人以上が並んでいる。窓口は2つしか開けてない上に、ひとつは子連れ用の優先レーンとして占有されてしまうので、実質一般人用の審査窓口はひとつ。少し詳しく事情を聞かれる人が一人いると塞がってしまい、列がまったく進まない。眠気と疲労と大荷物でグラグラなのに、誰かと交代でトイレにも行けない。過酷でちょっと泣きたくなった。

この列に並んでいたときに、やたら周りの人にスマホを差し出して中国語でまくしたてるおばさんがいた。おそらくwifiの設定ができないと騒いでいる。皆無視しているが、私がアジア人女性客一人だから、私の所には重点的に来て何度もスマホを押し付けて「~~~wifi、プリーズプリーズ」と言ってくる。中国のスマホの操作なんてわかるわけないし、そもそも入国審査の時スマホ出しちゃダメじゃないっけ…? 結局最後まで無視したが、そのおばさんは壊滅的に英語もできず、入国審査の番が来ても、「何日間滞在するのか?」「どこに泊まるのか?」といった質問すら理解できていないようだった。あまりに手こずるので、とうとう別室に連れていかれてしまった。わわわ。目の前でそういうのを見てしまうと、いよいよ縮み上がってしまう。ちゃんと答えられないとああなるのか、うわーっ。1時間以上並び、やっと自分の番。消え入りそうな声でSimple English please…と頭を下げてパスポートを差し出す。

審査官の男性、表紙を見て、「えっ」という顔をする。

Were you in this line? -Yes.

Are you from Japan, right? -Yes.

Did you try ~~?

後半が聞き取れなかったが、ここまで何もやっていないので、「No, I didn't」としか答えようがない。帰りは試してね、といったようなことを言われ、もう行っていいよーと通される。イエスイエスノーで入国審査は終わり、何日間滞在かも聞かれず、印刷したファイルは何も活躍せずに終わった。多分「自動ゲートの方は試した?」と聞かれていたんだろうなあ。

「???」と思いながら進んでいくと、荷物の受取レーンの傍らに自分のオレンジ色のスーツケースがぽつんと残っていた。ちゃんと荷物が届いた事にも安堵。ああ、本当に今度こそ着いた、地上を歩いていいんだ…と胸をなでおろした。

つづく。