検索・発見という体験
お休み中ですが、やはり自分は「大量の情報の中から適した情報を知って良い気分になる体験」が好きなようで、ここ最近もなんとなく検索・発見について考えています。
この検索・発見という体験がなぜ重要なのか、それは一体何かというのが言語化できつつあるのでメモります。
体験と技術の違い
検索・発見という体験を実現するための「検索」や「推薦」といった技術もまた好きです。情報を収集、整理、保存、提供する作業やその自動化などですね。
今までは「体験」と「技術」が私の脳内でうまく分けて考えられていなかったのですが、ここ最近それが整理できてきたので、そこから始めたいと思います。
(体験としての)検索 ... 大量・多種な情報から目的に沿った情報を見つける過程(企業との接点について触れると、サービスによってゴールは異なり、例えばWeb検索はニーズが満たされることであったり、ECでは商品が購入されることであったりします。)
(技術としての)検索 ... (体験としての)検索を実現する技術、例えば本の索引やソフトウェアの全文検索など
(余談ですが、最近読んでいる「索引 ~の歴史 書物史を変えた大発明」という本が面白いのでおすすめです。索引についてがっつり書かれている珍しい書籍です。)
上記のような整理のもと、発見 (Discovery) と推薦を私は以下のように整理しています。(私見なので注意。学術的な定義や一般的な定義と若干のズレがあります。)
(体験としての)発見 ... 目的があいまい、もしくは全くない状態で、大量・多種な情報、もしくは一部を抽出・加工した情報と接することで目的それ自体を見つける、または明確にする過程
(発見を実現する技術としての)推薦 ... (体験としての)発見を実現すること「も」できる技術、例えば協調フィルタリングや、パーソナライゼーションなど
発見と推薦の関係がわかりにくいのでもう少し深掘ります。
例えば、特に明確な目的もなく図書館に来訪した利用者が何となく館内を歩きながら、おすすめの新刊案内(情報フィルタリングとしての「推薦」)を見てその本を読もうと思ったり、新聞の棚(意図した区画整備としての「推薦」)を見てニュースを読もうと思ったりする体験は「発見」です。他には、ECサイトにて、何となくサイトに訪れたユーザーが、セールの特集(意味のあるまとまりとしての「推薦」)を見てお得な家電商品を買いたくなったり、何となく欲しかったカメラの商品に関するまとめページ見る(情報を整理して提供する「推薦」)中で具体的な型番を明確するような体験です。
当然、以下のような体験も一般に使われる推薦技術で実現されます。
例えばECサイトで商品ページを見ているときに、そこにある「この商品を買ったユーザーが買っている商品」コンテンツで元々探していた商品の他に欲しい商品を見つける体験や、技術記事共有サイトでおすすめの記事が週に1度送られてくる中で興味のある記事を見つけるなどの体験です。
(はたまた余談:「推薦システム」は情報フィルタリングの一手法として、特定ユーザーに対して適した情報についても提案をするシステムとして語られることが多いように思います。一部の書籍では意思決定をサポートする文脈で語れている場合も観測していますが、私は意思決定のサポートという文脈も好きです。)
(追い余談:研究的な意味の「検索」では「(情報)ニーズ」というのは専門用語なので、結構慎重な用語の取り扱いが必要です。この記事ではコンテクストに合わせて「目的」、「ニーズ」、「〜ができるとハッピーになる」などの言葉を使っています。用語ブレブレでも怒らないでください...。)
注:「検索」は「目的明確化」の過程も含んでいる
現在の「検索」という言葉が指し示す体験は通常、あいまいなニーズが明確になっていく過程も含んでいます。
例えば、「近くの良い感じのカフェを知りたい」と思ったときに、検索をしますが、検索結果を見て「そういえば、フリーWi-Fiも使いたいな」とニーズが明確になっていく過程も検索の一部とされています。その他にも「ソニーのカメラ欲しいな」と思ったときに、検索を通して「"α7c II"が欲しい」となるのも検索の過程です。
では、どこからが検索でどこまでが発見と考えるのが良いでしょうか。結論から言ってしまうと、両者に明確な境目はなくシームレスにつながっていると思います。
検索と発見はシームレスにつながっている、繋がりつつある
昨今の世の中では、「何となくアプリを立ち上げる」という体験をする人が多いかなと思います。深く見ていくと、そこには「面白いニュースを知りたい」、「暇つぶしをしたい」、「友人が何やってるか知りたい」など詳細なニーズが出てくることはあるかと思いますが、明確なニーズなく、もしくはかなり漠然とアプリを開くことは一定数あると思います。(TikTok、Instagram、ある種のお買い物アプリもそうかもしれません。)
アプリに限らず、休日何となくショッピングモールに出かけることや、何となく繁華街に出かけるということもあると思います。
これらの行動・体験を検索の起点と捉えるのはなかなか難しいのではないでしょうか。なぜなら、こうした人々には「情報ニーズ」がなく、伝統的な検索の枠組みでは扱いにくいからです。
とはいえ、「目的の情報を見つけてハッピーになる」というある種のゴールを検索体験で実現するためには、前段に来るこれらの「発見」についてもよく考えデザインされている必要がありそうというのが私の考えです。
例えばGoogleの記事等推薦機能(Discover)ですが、実際に使っている人は何となくこの機能を見ていることが多いと思います。ここで新たな情報ニーズが発生して、それを知るために検索へという体験は一般的になりつつあるんじゃないでしょうか。
また、Instagramなんかも何となく開いてストーリー見ながら、友人やインフルエンサーのおすすめ商品を見て、ECアプリで検索して商品を探すということも一般的だと思います。一部のお買い物アプリではこれらが同一のアプリで完結する仕組みも徐々に広まりつつあります。
検索の操作や利用者の心持ちも変わりつつある
キーワードを入力して検索ボタンを押すだけが検索ではありません。
検索のインターフェースが変わってきています。
ソーシャルメディアでパラパラと流れてくるコンテンツのハッシュタグをもとに探したり、好きな商品から似ている商品を探したり、ChatGPTのような会話の中で目的の情報を探すことも多くなってくると思います。
さらに言えば、例えばTinderで有名な推薦コンテンツに対するGood/Badのフィードバックも検索と言えるかもしれません。
そのような中で、検索の際に能動的か受動的かの違いもあいまいになってきています。
推薦と検索について、Pull型かPush型かという違いで語られることもありますが、近年の情報環境でそれらを明確に区別している人はどんどん少なくなってきていると思います。
検索結果も当たり前にパーソナライズされおすすめの情報が自然と混じっていますし、推薦された情報を眺めていると思ったらいつの間にか能動的に検索行為を行なっていることも当たり前になってきています。
検索・発見 (Search & Discovery)という概念を導入したい
ここまで見てきたように検索と発見は相互に結構関連性が強いですし、それらを取り巻く状況は技術の進歩やサービスの定着で変わってきています。
「検索の概念を拡張しよう!」というのでも良いのですが、検索という概念は結構歴史がありますし、ある程度意味が定着した用語をそのまま使うのはそれはそれで混乱を生むので、「検索・発見 (Search & Discovery)」というラベルを使いたいわけです。
つまり、ニーズのある人をニーズに適した情報へ導くだけでなく、ニーズを見つけたり明確にしたりするところから考えることが重要で、ニーズの発見からニーズに適した情報を見つける全体の体験を良いものにしましょうというのが主張したいところであります。そんな体験全体を指す言葉として検索・発見 (Search & Discovery) があると良いかもしれません。
感想(おわりに)
メモとか言ってる割に結構重めの記事になってしまいしたが、Search & Discoveryに関する今の考えをまとめられて良かったと思います。
いろんな人が読む用にこの記事をどこかのタイミングでリバイズしたいところではあります。
関係ないですが、このしずかなインターネットは雑に文章書き始められるので良いですね。