五月二十七日

ふるいはさみ
·
公開:2024/5/27

送電線の泣き声に胸を締め付けられるのは、遠い意識に埋もれきれなかった記憶が騒ぎ出すからだ。こどもの頃の思い出には常にせつなさが伴う。寂しさと温かさ。恐怖と安堵。なにかしら対比のなかで育ってきたと気づく。

現実の風景はどうであれ、そこに荒野がある。たったひとり立たされ風に吹かれていたぼくに、送電線だけが共感してくれる。そんな夕刻を思い出しながら走り去ってゆく電車を見送る。曇天の隙間からみえる夕焼けは、それ自体が希望であって後悔でもある。

@furuihasami
日記のようなそうでないような散文を書きます。筆名は小川未明の作品から。これまで書いた韻文は slib.net/a/26091