八月十二日

ふるいはさみ
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公開:2024/8/12

忘却された記憶はどこへ行くのだろう。頭のなかから逃げてゆく記憶を追いかけてみたいけれど、追いかけようと考えている時点で忘れていないということだから、忘れたものを追いかけることは不可能といえる。

とはいえ、ぼく以外の誰かの頭から逃げた記憶なら街に浮遊していて捉まえることができるかもしれない。そう思いながら牛丼屋の前なんかを歩いていると胸が速くなるときがたまにある。忘れられてしまった誰かの記憶と触れた瞬間なのかもしれないが、かといってその記憶がぼくに取り込まれるわけではない。その記憶が持つ感情のラベルを認識し反応したに過ぎない。

では、忘却された記憶は最終的にどこへいくのだろう。空一面に広がった雲を見上げたら、一粒の雨が落ちてきた。

@furuihasami
日記のようなそうでないような散文を書きます。筆名は小川未明の作品から。これまで書いた韻文は slib.net/a/26091