ぼくは夕暮をいくつ知っているのだろう。数限りないくたびれた感情が電車という箱に収まって西に向かって走っている。その先のオレンジ色はなにも包み込まないしなにも突き放さない。ただそこにある夕暮を見送るしかなくて、世界とぼくは対立概念であるかのように膝を抱えて座り込む。そうか。ぼくは包み込まれたかったんだな。そう気づいてしまえば夕暮は一瞬振り向いてくれる。
今思い起こしてもこれ以外にぼくが知る夕暮はない。だからぼくは夕焼け空を見ると、満たされたおもいと満たされないおもいの両方を天秤にかけて、世界は絶妙な均衡のうえに成立していることを知る。そしてぼく自身がバランスブレイカーになり得ることに気づいたら、西の空に背を向けて歩き出すしかない。目の前に広がるのは闇。なにもないことほど豊かなことはないのだから。