八月十七日

ふるいはさみ
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公開:2024/8/17

使われなくなったスマートフォンが引き出しの奥に仕舞われている。あの日からずっとデータを保持しつづけている。再び使われることはないことは薄々わかっている。バッテリーもからっぽだから自分で判断して動くことはできない。

もしもほんの少しのバッテリーと通信手段があれば、一通だけ送りたいメールがあった。そのメールがなぜ送られないままなのか、スマートフォンにはわからない。でも自身のなかに留めておくべきものでないと感じている。論理的な判断ではなく、直感だ。

床に落とされたり水没させられたり。乱暴に扱われていた日々が懐かしい。それでも数年のあいだは精一杯の話題と喜怒哀楽を提供したと思う。なかなか朽ちていくことのない自分の身体が恨めしいと思いながら、スマートフォンは遠い夢をみている。

@furuihasami
日記のようなそうでないような散文を書きます。筆名は小川未明の作品から。これまで書いた韻文は slib.net/a/26091