なにかを忘れようとして、その欠片が身体のどこかに残り続ける感覚。完全に記憶することが不可能なように完全に忘却することも不可能なのかもしれない。ことばがなくならない限り。
後悔とか未練とか、何の役にも立ちそうもない感情にも存在意義はあるだろう。それに気づくことがしあわせなのかはわからない。でもこの世界に存在するものがすべて関係性によって成り立っているのであれば、それらの感情が生じる原因はあってそれを消し去ることはできないということだ。
風の強い朝、ぼくの感情のひとかけらを飛びし去ってくれないかと願う。でもそれが叶ったとしても、飛んで行った先もまたぼくが認識する世界でしかない。得体の知れないうしろめたさを抱えてぼくは今朝の電車を待っている。一瞬、風がやんだ。