母の夢をみた。
どこか会館のような場所でトイレに行きたいという母の手を引いていた。ひとに訊いてもトイレの場所がわからず、母の足元に気をつけながら声を掛けつつゆっくりと歩いている夢だった。夢のなかで、ああ、こんなにも母にやさしく接することができるのだと安堵している自分がいた。
母が亡くなってそろそろ3年になる。
晩年の母とはうまくいかず、私も苦しかったけれど母はもっとつらく情けない思いでいたに違いないと、今になって胸が痛む。妹は長年海外に暮らしており、あちらの生活を捨ててまで介護を担ってほしいとは考えたこともなかったから姉妹の間に介護をめぐる軋轢はない。むしろ、泣きながら電話で訴える私の愚痴に対してよく我慢強く付き合ってくれたと感謝している。
あんなこと、こんなこと、もっとできたはずだった、自分はなんて冷酷な人間なのだと思う反面、あれ以上は私には無理だったという気持ちがまた私の心を暗くする。ありきたりな後悔だ。
母が好きだったピンクの花を供える。父の好きだったお酒を供える。親なし子になった私は、夢のなかでは笑っている父と母を思い出して少しだけ幸せを感じている。