泳げもしないのに海が好きだ。
だから泳げもしないのにダイビングをしたことがある。珊瑚や魚や貝などの海の生き物が好きで、それを見たいと思ったのだ。
思い立ってすぐにダイビングのライセンスをとるために沖縄に向かった。私が住んでいる地域は十一月といえばもう冬に近い秋で、冷たい風が吹いている。日によってはウールのコートが必要だ。だけど十一月の沖縄は夏みたいに暑かった。飛行機から降りた途端にぬるくて湿った空気に包まれたことを覚えている。見慣れぬ道ばたの植物に高揚し、明日からの海が心から楽しみだった。
ところが正直なところライセンスをとるための講習は地獄だった。インストラクターも一緒に講習を受けた男性二人もとてもいい人たちだったけど、ただただ私の体質がダイビングに合っていなかったのだ。
どうしてもスムーズに耳抜きができなかった。インストラクターの言う通りにやってみたがうまくいかず、終いには鼻血が出た。海からあがったあとに耳から異音がするようになり、帰ってから耳鼻科に行った。鼓膜がへこんでいると言われて鼻から空気を入れられる。鼻から耳にかけての痛みで涙が出て、看護師に笑われた。
せっかくライセンスをとったのだからとその後も三回ほど沖縄でダイビングをした。年上の女性と知り合ったり、楽しいことがたくさんあった。だけど船酔いをやり過ごしながら波立つ海面を眺めているとき、ようやく私は砂浜や波止場から海を眺めているのが好きなのだと気付いた。
海の中で見られる珊瑚礁やいろとりどりの魚、大きなウミガメやカーペットみたいなマンタも素敵だったけど砂浜に座って海を見ている方がずっと良かった。ときどきやどかりが歩いているのもかわいい。
それに気付いてから、そういえば私は盛り上がっている人たちの中にいるよりも外側でそれを見ている方好きだと思い出した。人々の輪の中にいるのは落ち着かない。
大好きな海に対しても同じなのだと思うと少し悲しくて少しおもしろかった。