『おやすみプンプン』を読んだよ

fuyutta
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読んだ漫画:おやすみプンプン(浅野いにお)


浅野いにお長編作品は初挑戦

『世界の終わりと夜明け前』と『素晴らしい世界』は前に読んだけど、どちらも短編集なので(一部続きものとか世界観共有してる話はあれど)浅野いにお先生の長編作品を読んだのは初めて

既読の短編集がどちらも、というか多分浅野先生の作品自体が割とジュブナイル色が濃くて、恐らく一番ハマれる年代を過ぎてしまっているという自覚があったので、今から読んで感銘を受けられるだろうかと内心やや及び腰で読んだんだけど、めちゃくちゃ良かったね…一気読みしちゃった やはり名作と言われるだけあるな

あの日の約束に殉ずる話

子どもの頃に交わしたささやかな約束が子ども故の無力さが原因で果たされずじまいになり、その事に後ろ髪を引かれながら中途半端に大人になったある日偶然心残りと再会する機会があって、それまでの何もかもを捨ててあの時の約束を果たしに行こうってなる話、アウトラインが盛大に癖なのでもうそこだけでも最高だった(一息)

これ、約束を果たしたから現状が良くなるってわけでは一切なく、ただただ普通に現実逃避してるだけで向かう先は破滅一直線なのが良いんだよね そもそも小学生の時にプンプンと愛子ちゃんで約束した「一緒に鹿児島へ行く」って約束自体、現実的な目線で考えれば本当に実行できたとして確実に辿り着く前に大人に見つかって捕まるのは目に見えてるのでぶっちゃけお伽噺でしかなくて、大人になった今となっては尚更鹿児島なんか行ったところで何も変わらないのはわかりきってるのに、それでも行こうとしてしまうのは約束を果たせなかったあの日の自分たちに報いたいからで… ただ、過去に報いるって行為は身も蓋もないが生産性はマジで0なんだよな 何の意味もないんだあの逃避行には でもそうするしかなかったんだ

鹿児島に向かうプンプンと愛子ちゃんの姿は、その先に未来なんてないのが明白だからこそ無垢で愚かであまりにも美しい、んだと思う

救われない

愛子ちゃんの毒母殺った時点でもう誰も幸せになんかなれるわけねーーーだろっていうのはわかり切ってたけど、それでもラストまでずっと「救われるなーーーーー!!!!!!」と思ってました 地獄のオタクでごめんな

当事者じゃないのにその人の幸せを勝手に推し量るのは傲慢なので愛子ちゃんが幸せだったかどうかは愛子ちゃんにしかわからないけど、救いとか安息みたいなものを幸せと呼ぶのであれば愛子ちゃんは最後までそれを手にすることはできなかったと思われるし、毒母殺した後にプンプンの手を取った瞬間にその機会を永遠に失ってしまったんだろうなと

心の安寧って犯した罪とか後悔とかそういう直視したくない自分自身と正面からじっくり向き合って初めて得られるのでね…自首しなかった時点で救いなどなかったのだよ…まあこの話で重要なの道徳じゃないんで全然良いんですが

ちなみにプンプンの迎えた結末は救いじゃない派です この物語の主人公だったプンプンは愛子ちゃんが死を選んだ時に一緒に死んだから

鬱って感じはあんまりしない

オチがまあこうなったら行き着く先はここだろうなって感じですんなり腑に落ちたので、個人的には鬱~!って印象ではなかった

自首の話した手前あれだけど、プンプンも愛子ちゃんもあの状況で自首するかって言われたら絶対しないし、全編通して「いやお前それはもうちょっと何とか上手いやりようがあっただろ…」となる展開がほとんどなかったのが大きい 登場人物の誰にも一切感情移入しなかったし終始お前らは何???ってなってたのに、そいつがその時その行動に出た心情は大いに理解できるから「まぁこうなってもしょうがないな」と納得できた この辺浅野先生の描き方が上手いと思う

あとこの物語はプンプンと愛子ちゃんが手を取り合って堕ちていく話なので、究極言うとその時二人がそれでいいと思ったならいいんです 外野が鬱と思おうが何だろうがどうでもよくて

ま、逃避行のうちに徐々に正気に戻っちゃってそれでいいと思えなくなった結果があの愛子ちゃんの結末なわけですけどね! うーんメリバ!!!


浅野先生の作品、人間模様はドロドロしてるし画面から生活臭するしテーマは基本じっとりしてて湿度高いのに、読後感は異様にさわやかで清々しいの何なんだろうな、謎だ。どんなに鬱展開になろうが救いがなかろうが最終的には人間賛歌を思わせるパワーがあると思う。プンプンも例に漏れずそういう漫画だと感じたので、これを鬱漫画として人に勧めるのちょっと抵抗がある(じゃあ何漫画だよって言われたら困るけど。人生漫画とか?)。個人的に鬱漫画ってもっとどうしようもない感じを想像するけどな…連ちゃんパパとかミスミソウとか…いやミスミソウは突き抜け方が鬱じゃないな…。

プンプン、人一人の人生を原液で流し込まれるので読後の疲労感がえげつないけど人生なのでどえらい面白かった。一回読んだら忘れないやつです。多分10年後とかでもたまに前歯欠けた愛子ちゃんの笑顔を思い出す。

@fuyutta
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