深夜の事件簿

燃油高騰恐るべし。

毎年夏と冬に1か月半ほど日本に帰国する私が、去年の夏は航空券が高すぎて、帰国を断念するに至った。とても悲しい。その悲しみをバネに半年前に冬のチケットを予約したおかげで、無事にクリスマスから1月下旬まで実家でぬくぬくと過ごすことができた。

しかし、問題が一つあった。食欲である。

とてつもない食欲が私を襲った。常に腹ペコ。腹ペコ青虫。いや、その勢いはモスラ級。腹ペコモスラ。

モスラは実家にある食材を食べ尽くした。晩ご飯に母の作ったとんかつを食べ、食後のおやつを食べ、夜食のカレーを食べ、何食かわからないオムライスを食べてから眠る日もあった。

行きつけのラーメン屋に行けば、替え玉を4回して、近くの客を戦慄させた。そして、帰宅してアイスと惣菜パンを食べた。

無茶苦茶だ。おかしいよ、こんなの間違ってる!誰か私の小美人*つれてきてよ!

帰国中、私は1か月ちょっとで8キロの大増量に成功した。不景気でお菓子のサイズがどんどん小さくなる中、私だけ増量。大変お買い得です。

自分の食欲に驚きつつも、実は一つだけ心当たりがあった。

飲んでいたお薬である。

普段住んでいる国で、帰国の少し前から病院に通って薬を処方されていた。今まで飲んだことのない薬で、私の身体に合わせて、お医者さんが量を調整して処方してくれたのだが、「次の受診の時に、薬の効き具合を詳しく教えてください。それで、また量を調整しましょう」と言ってくれた。

私はこの異常な食欲を薬の副作用ではないかと睨んでいた。だから、次の受診時にお医者さんに聞けば、この食欲の謎が解決するはず!と期待していた。

そして、国に戻り最初の受診日。「お薬、どうですか」と聞かれたので、待ってましたと言わんばかりに「へいへいへい!このお薬もしかして食欲増進の副作用があるんじゃないDESU☆か?」と勢いよく尋ねた。

「うーん、代謝が落ちやすくなる副作用はあるけど、食欲増進は、ないかな。太りやすくはなるかもだけど。」

つまり、ただの食いしん坊だった。ほんとかわいいな、私は。

食いしん坊モスラはとどまることを知らず、日本から戻った後もさらに2キロ増やして、順調に巨大化を続けている。

自室に置いてあったスマートスケール(体重計)に1か月ぶりに乗ると、あまりの体重の増え方に、AIが「以前の方と体重がずいぶん異なるようです。違う方ですか?新しいアカウントを作成しましょう」などと煽ってきた。ちくせう。馬鹿にしやがって。

わかったよ!見てろよ。次の日本帰国までに元の体重に戻してやるよ!

そういうわけで、食事に気をつけることにした。

最近は毎日のように3時のおやつに手作りホットケーキを3枚ぺろりと食べていたので、まずその制度を廃止した。

次に、米・パスタ・ピザ・フォー(ベトナムの麺)・バーガーも禁止した。野菜・果物・豆・肉中心の生活、もとい、戦いが始まった!

ちなみに、始まったのは昨日のことである。

早速、晩ご飯はオリーブとトマトのおされサラダにした。めちゃくちゃおされだった。飲み物はレモングラスのハーブティー。しかも19時ごろにはごちそうさま。え〜けんこうてき〜!

気分をよくした私は冷蔵庫の食材を整理しながら、明日の昼ご飯のカレーも今のうちに作っておこうと思い、調理を始めた。

みんな知らないかもしれないけど、カレーはすごくおいしい。おかわり不可避料理ナンバーワンと言っても過言ではないと思う。

野菜をわざと大きめに切って、弱火で長い時間コトコト煮込む。存在感たっぷりだったカクカクのじゃがいもやにんじんがすっかりまあるく柔らかい状態になっている。じゅるり。

えー、もー、今食べたいんだがー。

そういう気持ちを堪えつつ、歯を磨いて寝床につく。読書タイムを終えて、さあおやすみ。

そこから1時間後。

気づくと私はキッチンでカレーを食べていた。

うわあああああああああ!

おかわりもした。

うわあああああああああ!

深夜1時の出来事である。

<完>

*小美人……モスラと意思疎通のできる妖精。