立川巡検⑴

近々引っ越す可能性があるので、先日パスポート更新手続きついでに立川を巡検してきた。

元々東京都西部のハイスペ郊外型都市が好きな理由はいくつかある。

⑴大型書店、CDショップ、シネコンなどは都心部とそれほど遜色ない

これらの文化施設、確かにネットで済む時代ではあるけど、やはり「一覧性」というものは大事である。欲しいものをプルするのは在宅でもできるが、自分が何が欲しいかを「プッシュ」してもらうには一覧性の高い場所でブラウジングするに限る。

その点立川には高島屋にジュンク堂が鎮座している。CDショップもハロプロのリリイベでお馴染みの立飛のタワレコがある。シネコンは吉祥寺よりラインナップがよい。あとは美術館があれば六本木にすら勝てるのだが…驚異の所蔵点数を誇る八王子富士美術館のアクセスは何とかならんもんか。

⑵オーバーツーリズムに陥らない

観光客も含め、「周辺地域以外から」わざわざ街を訪れる人が少ないのだろう。自分は軽い雑踏恐怖症気味なので、新宿渋谷の中心部はもうなるべく歩きたくない。これが千葉や埼玉だとこうはいかないのだろう。県庁所在地はもっと混み合うし、その一つ下のランクの都市は一気に使い勝手が落ちる。東京西部だから成立する都市の規模感と人口密度のバランスだ。これと関連して言えば、

⑶街に変な「眼差し」が向けられていない

意外かもしれないが、自分は言うほど大型商業施設とかペデストリアンデッキとか、再開発的風景が嫌いではない。便利なのはいいことだが、再開発が進みすぎている街は文化施設が貧弱なのが問題である。あと、何事もやり過ぎは問題である。再開発が進みすぎて、自生的な旧市街が完全に塗りつぶされているのが問題なのだ。

最近は「文化的な地区」の再帰的創出というか、変にオシャレな再開発が盛んである。下北なんてその最たるもので、渋谷などは宇田川遊歩道の奥の奥までオシャレに再開発されて息苦しい。何が困るってオシャレな地区では自己肯定感が落ちる。特に食べ物は最悪で、オシャレな場所で他人の目を気にしてばかりだと味がこじんまりとしてくるのだ。自己肯定感の高い食い物は大抵雑然とした旧市街の自生秩序の最中か、あるいは意外と大型商業施設の最上階とかに転がっている。今回試みたへぎ蕎麦の店(高島屋の9階)は大当たりだった。今時中ジョッキがこのサイズ、この形態で出てくるのも素晴らしい!

結局競輪場があってWinsもあるので、街に漂うおっさん臭を脱臭しきれず、オシャレ再開発ができないのかもしれない。その割に多摩モノレールが出来たおかげで若年世帯向けの必要な再開発には怠りなく、隣駅に一橋、モノレール沿いにも大学が散在しているため、偏差値高めの文化施設にもニーズがある、という奇跡のバランスが立川には存在するのだろう。

⑷風土の雄大さ

自分は大型商業施設やペデストリアンデッキのように「実用性に特化した再開発」は好きだが、一方で「オシャレな再開発」とか「駅近の綺麗な公園」のようなものがあまり好きではない。

何というか、ああいういかにも「文化や自然を感じられるところ」に行って、「文化的だなー」とか「自然はいいなー」とか言わされるのを生ぬるく感じるのだろう。文化や自然は自分で見出すものでなければならない。

同様に郊外の国道沿いなどに行って、「ここは何も見るべきものはない」などと宣うのも嫌いだ。歴史はどんな場所にも蓄積しているし(ただし、豊洲。テメーは別だ)、郊外にでも行けば見かける生物の多様性もぐっと広がる。「何も見るべきものがない」のは、そう言う人の頭の中の問題である。

東京都下で言えば、歴史の蓄積が浅いのは都心の方である。16世紀の小氷期までは海の底だったり沼沢地だったりして、到底人の住める場所ではなかった。少なくとも応仁の乱以前は武蔵国の中心部は鎌倉-町田-高崎を結ぶラインにあった(国分寺には武蔵国分寺があり、府中には武蔵国府があった)。いわゆる鎌倉街道上道である。奥州から鎌倉に馳せ参じた源義経も、上州から討幕の兵を率いて南下した新田義貞も、越後から小田原に攻め込んだ上杉謙信も、皆この道を通ったのだ。自分は歴史好きだが、「江戸時代の風情を偲ぶ」みたいなのはあまり好きではない。ああいうせせこましい時代に立脚する歴史的想像力より、浪漫は応仁の乱以前にこそあり、それは大抵郊外の国道沿いに眠っているのだ。

https://kaidouarukitabi.com/rekisi/rekisi/kamakura/uemiti/kamakurauemichi1.html

ところでこの鎌倉上道、現代で言えばちょうど評判の悪い国道16号に相当する。国道16号というのは戦後の米軍軍事施設を結んだ道なので、米軍撤退後にかなり広大な土地が市営化され、無駄にデカい公園になりがちなのも風土の雄大さに拍車をかけている気がする。どうも日本的な風景ではないのだ。立川は小室哲哉を育んだ街で、朝霞は尾崎豊を育んだ街だったりもするのだが、ポストニューミュージックのJポップ原風景としても考察の対象になりうるだろう。

なお立川は徒歩で20分ほど南下すると多摩川にぶち当たり、対岸には多摩丘陵とその背後に関東山地の稜線を臨むことができる(場所によっては富士山の勇姿も真近に拝めるだろう)。この雄大な山河の様は標高50m線以東の繁華街にはないものだろう。多摩川が削った河岸段丘からは湧水が流れ、山河を眺めながら風呂に浸かれる温泉も付近にある。この辺りの話はパスポート受取ついでの第二次巡検の際にじっくりと報告したい。