紅茶のロールをする前に読む文章

gob
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公開:2025/12/3

 文明の発達というのは偉大なもので、紅茶といえば日本人ならほぼ誰でも知っていると思う。ただきっと、それはなんとな~く知っているだけだ。

 ナーロッパ、マカロニウェスタン、カリフォルニアロール……そういうのもいい。いいけど、自覚なくやりたくはないよね。

 じゃあそういうのを避けつつ、「紅茶好き」が相手にどういった印象を与えうるかを考えられるよう、周辺知識の整理をしてみよう。紅茶にこだわりがあるキャラクターをやる上で入口になりそうなことを書いてみようと思う。


 この記事はドカメンチ・2025 Advent Calendar 2025 3日目の記事です。

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TL;DR.

  • TLDRとまとめだけ読めばいいよ

  • みんながふんわり知ってる紅茶って"イギリス流""フランス流"が混ぜこぜになってるかも

  • イギリスはインド(ダージリン、アッサム)とケニアの紅茶。ミルクティーアールグレイ。ヌン茶をはじめとしたカパカパたくさん飲むティータイムの文化

  • フランスは香りをつけたスリランカの紅茶。フレーバードティー。マカロンやカヌレのような甘いものと香りのいい紅茶を楽しむティーサロンの文化

  • その他、ダージリンとかセイロンとかフレーバードとかの整理

    まぁでもお茶なんて美味しく飲めればそれでいいよね。それはその通りです。あと話半分で聞いてね。私もまだ道半ばだから……。

目次

  1. そもそものお茶の話

  2. お茶の分類

  3. 紅茶について知ろう(ダージリンとかアッサムとか)

  4. 紅茶の文化の話(フレーバード、ノンフレーバー、英仏)

  5. まとめ

  6. 余談① クオリティシーズンの話

  7. 余談② 各産地の紅茶の価格

  8. 余談③ チャノキの変種や品種の話

  9. 余談④ オススメの紅茶、福袋情報 25末編

 1~5までを読んでおけば、紅茶に対する知識が体系的に頭に入ると思う。その場でググってロールするよりは自然で一貫したロールができるはず。

 余談はロールで詳しい話をしなきゃいけなくなった時に見るやつ。

 結局お茶って飲んでみないとわかんないし、実際手を出したいと思ってくれた人向けに最後に余談④で紹介とかをやる。

1. そもそものお茶の話

 お茶とは、チャノキという植物の葉を加工した茶葉製品、あるいはそれを水等に浸して抽出した液体のことだ。

 チャノキというのは、静岡とか鹿児島とかあの辺に植わってるお茶用の木のこと。学名はカメリア・シネンシス。和訳すると「中国のツバキ属」らしい。

 しかし、世の中では茶ではないものも「茶」「ティー」と呼ばれることがある。いったんそれを整理しよう。

 つまり、麦茶やルイボスティーなんかは厳密にはお茶ではない。チャノキの葉を使っていないから。こういった「お茶として服用されているけどチャノキの葉を使っていない飲料」は「茶外茶」に分類される。

 ハイビスカスやブルーピー、ハトムギ、ローズヒップ、カモミール、マテ……全部そうだ。ノンカフェインのものは大体それであるとみなしていい。ただし、商習慣上は「ハーブティー」と表現されることが多い。

 もちろん、そういったハーブがチャノキの葉とブレンドされているものもある。そうなれば、分類は茶になる。

 厳密なことを言えば、チャノキの近縁種の扱いについても話できるけどそこは興味ないよね。紅茶について掘り下げよう。

 次は茶の分類について話そう。紅茶ってなんなの? という話。

2. お茶の分類

 お茶には6種類+αある。

 紅茶、緑茶、烏龍茶(青茶)、白茶、黒茶、黄茶だ。

 ちなみに+αの部分は茶外茶と、茶に加工済みの茶葉に手を加える再加工茶だ。すでに完成した茶葉に香りをつけて製品化するフレーバードティーなどがこれにあたるが、いったん置いておこう。

 まず知っておきたいのは、世界で生まれる茶の約7割が紅茶に加工されていること。世界では、茶といえば紅茶なのだ。

 紅茶と緑茶とで95%……支配的だ。米英で抹茶ブームが起こるまでは、緑茶はアジア圏でしか飲まれていなかったらしい。烏龍茶なんかは中国と台湾でくらいしか作られていないし、日本人もペットボトルでしか飲まないよね。

 紅茶も緑茶も烏龍茶も、その他のお茶も、元々はチャノキの葉を使って作られる。じゃあ何が茶の種類を決定するのだろう?

 それは、製法

 発酵度と説明されることもあるけど、それでは説明できない奴らがいるんです。たとえば、「完全発酵茶」を紅茶として定義してしまうと、ダージリンのファーストフラッシュなんかは全然発酵してなくて詰む。

 そもそも発酵という言葉も悪くて……ってのは各自ググってください。省略。

 そういうわけで、国際標準化機構(ISO規格のとこ)は製法で分類している。なにを以て正しいとするかは置いといて、いったんそれをまとめてみた。別に読み飛ばしていいですよ。美味しく飲むためだけなら不要だから。

 以下の画像はISO 20715:2023 茶類の分類について、に基づく。 

 うるせ~~~~~~知らね~~~~~~~。それで構いません。ただ、まぁ、発酵度だけじゃ説明がつかなくなるお茶についてはこういう形で整理されているよという感じ。

 そもそも紅茶以外ってアジアでしか作られてないし! 緑茶は9割が中国と日本とで、烏龍茶はほぼ中国と台湾とで、白黒黄茶に至ってはほぼ中国でしか生産されていないし!!

 ただまぁ、いろんな国がいろんな仕上げをしているという意味で、紅茶はややこしい。とにかく多様化している。文化もそうだし、味とか求めるものとかも全然違う。ことさら産地によってお茶は風味がかな〜り変わるので、次は産地ごとの紅茶について掘り下げよう。

3. 紅茶について知ろう

 さまざまな企業の努力によって、私たちの身の回りには紅茶が溢れている。

 午後の紅茶、紅茶花伝、クラフトボス、日東紅茶、リプトン、ルピシア……くらいまでなら聞いたことあるかな。アフタヌーンティーが流行ったのも記憶に新しい。

 ぶっちゃけ上述したお茶たちの違いってあんまわかんないと思う。意識しないもん、ふだんゴクゴク飲むものって。私だってペットボトルの麦茶とかレモンサワーとか、どれがどう違うのかわかってないし。

 だからここから先は嗜好品に近い紅茶の話をする。つまりダージリンとかそういうやつを深掘りしよう。

 まず覚えておきたいのは、紅茶の味は①産地と②収穫時期とでだいたい決まるということ。

 ①産地の方は簡単だ。覚えておくべき産地はそう多くない。国で区切ると片手で数えるほどだ。口にする機会があるのは、「インド」「スリランカ」、それから中国。あとは……ケニアとくらいなものだから。

 ②収穫時期はややっこしいので余談に飛ばす。クオリティシーズンの項。

 ここから下しばらくは画像だけ見るのでもいいです。詳しく知りたければ文章も読んでね。


 まずはインドだ。

 インドはダージリン地方とアッサム地方を抱える超一級産地で、元イギリスの植民地。これくらいならみんな知ってるかも。

 「フルボディの味わい」とは、旨味が濃厚で渋さが強く、香りがしっかりとしている……くらいの意味です。ボディは軽い~重いまであって、インド紅茶は全体的に中くらい~重いほう。

 ファーストフラッシュとかセカンドフラッシュとかの話は余談①でします。

 他には、ダージリンの農園は国が管理しているから新しく作れず、今でも80弱程度しかないとか……その一方でアッサムは自由だから800以上の農園があるとか……。そういう豆知識はいいか。


 次はスリランカ元々はフランスの植民地で、コーヒーがサビ病で全滅したから紅茶もはじめたんだって。リスク分散。

 スリランカの紅茶はセイロンティーと呼ばれる。セイロンはスリランカの旧国名。セイロンティーを区別する指標はふたつあって、①産地と②標高

 産地で風味が違うのはインド紅茶と同じだが、セイロンティーは生産される標高によっても大雑把に風味が統一されているので、ハイグロウン・ミディアムグロウン・ロウグロウンティーと呼び分けられることが多い。

 ぶっちゃけ私はセイロンティーに詳しくない。しかし飲めばすぐにわかる特徴として、全体的に味わいがスッキリしている。インドは重いがセイロンは軽い。

 そのためか、フレーバードティーの原料としての活用が目立つ。午後の紅茶のホームページを見ると、なんか見たことある産地の名前が見られると思う。

 なによりこういう活用が多いのは、インド紅茶に比べて圧倒的に安価だから! セイロンティーは安くて美味しい。

 ◎マークが付いているのは有名な産地、薄字はマイナーだったり最近出てきた区分だったり。ロールで引き合いに出す指標にでも。


 その他の国の紅茶生産の話。ケニアと中国くらいは抑えておきましょうか。

 ケニアはコーヒーだけじゃなく紅茶の産地としても名高い。生産量ではスリランカを超えて2位……なんだけど、ブランド化はされていない。スッキリとしすぎた香りで印象に残らない割に、コクだけがめちゃくちゃ強いからあまりストレートで飲むのに向いていないなと思った覚えがある。

 なのに生産量が多い=たくさん消費されている理由は、ミルクティーに向いているから。リプトンのイエローラベルやルピシアのミルクティー用ブレンドなんかはケニア紅茶だったはず。そしてなによりその特性から、ミルクティー大国イギリスで愛されまくっている。元々ケニアもイギリスの植民地だしね。

 ケニア紅茶と聞いたらミルクティー向きなのかな、と思おう。アッサムとブレンドされがち。

 それから中国。中国紅茶は他国のそれと決定的に違う点が1個ある。渋さを嫌うのだ。酸味と渋みを徹底的に排除する文化の中で成長したのが中国のお茶文化だ。緑茶も烏龍茶もそう。

 なので、香りも味わいも他国の紅茶と完全に別物。なんなら入れ方すら違う。中国紅茶の茶葉をお湯に3分も浸けておこうものならとんでもない味になってしまう。

 そして、いいものになると高い。ダージリンより圧倒的に高い。その上それを相応に味わうためには素養が必要になる。いきなり飲んでも理解しきれない。行くとこまで行っちゃった文化なのだ。

 中国紅茶が好きな人は、なんかもう行くとこまで行っちゃった人だと思おう。

 代表的な中国紅茶は、松の香りで燻した正山小種(ラプサンスーチョン)。ただしこれは海外向けの製品で、中国国内ではほとんど飲まれない。国内で人気なのは「祁門(キームン)」、「滇紅(てんこう)」、「金駿眉(きんしゅんび)」あたりか。どれもスッキリとして香り高く、茶葉の甘さが目立つのが特徴だ。


 というわけで今まで出てきたノンフレーバーで飲むときの味わいのまとめ。ケニアは数えるくらいしか試してないのでグラフからは除外。

 このグラフには致命的な抜けがあって、香りの軸がないこと。セイロンティーよりインド紅茶のほうが圧倒的に香り高いし、インド紅茶と中国紅茶は香りのベクトルそのものが違う。ただ、視覚的にそれを表現するのがむずかしくて……。

 ざっくりと、こういうのが好きならこういうのも好きかも、みたいな参考になるんじゃないでしょうか。なりませんか?

 続いて、文化の話です。

4. 紅茶の文化の話

 産地の話が終わって、ようやく文化の話ができる。気になっている人が多いであろう、フレーバードティーの話だ。

 紅茶として加工された茶葉に香りをつけたものをフレーバードティーと呼ぶ。香料で香りをつけたものをフレーバードティー、果物や花弁を混ぜて香りをつけたものをブレンドティーと呼ぶ……みたいなんもあるらしいけど、いったんそれは無視する。

 最も有名なフレーバードティーといえば、アールグレイだろう。しかし、こいつはかなり特殊な立ち位置にいる。それを理解するためには、イギリスとフランスとの話をしないといけない。

 実は、イギリスとフランスとって紅茶の入れ方すら違うんです。


 まず、アールグレイが生まれた国イギリスでは、紅茶のほとんどがミルクティーとして消費される

 そして我々が知るほとんどの紅茶文化はイギリスのものだ。

 なぜミルクを入れるのか。それは、イギリスの紅茶のほとんどはインドとケニアのものだからだ。上述したように、両国の紅茶は苦く渋くコクが強い! コーヒーのことを思えばなぜミルクを差すかはわかるはずだ。苦いから、マイルドにしているのだ。

 さっきは「ほとんど」と表現したが、曰くイギリスでは紅茶の98%がミルクティーになってしまうらしい。リントンズという老舗メーカーがそう言ってた

 つまりは、イギリスの紅茶文化とは、ミルクティーをたくさん作ってゴクゴク飲むような文化である。もちろんアフタヌーンティーのように、小麦菓子や食事などと合わせて。イギリスでは、日常の延長線上に紅茶があるのだ。

 アールグレイもミルクティーにされることが多いらしい。これもリントンズが言ってた

 でもこれはおかしいはずなんです。牛乳ってかなり香りが強くて、フレーバーを殺してしまうから。

 結論から言えば、フレーバードティーの本流はフランス。

 ミルクティー文化のイギリスで生まれたブレンドだからこそ、珍しい飲まれ方をしているということになる。

 続いてフランスの紅茶文化の話。


 第一に、フランスはコーヒーの文化圏だ。男性だらけのカフェに入りづらかった女性たちが、女性の社交場として作ったのがティーサロン。そこで、甘いものと紅茶を楽しむのだ。これが発展して世界を席巻するフレーバードティーの文化となる。

 フランス紅茶文化の特筆すべき点は、渋さを嫌う点。中国と違って、生育段階から渋さを抑えることはできない。そのため茶葉の扱いを変えることで、渋さを抑えようとする

 たとえば紅茶の入れ方からもう全然違う。

 紅茶文化が起こった時代、フランスが輸入する紅茶は植民地であるスリランカ産のものだった。そのスッキリとした渋い紅茶は、フランスの食文化の中で、華やかな香りをつけて楽しまれていくようになる。

 というのもイギリスと違って、フランスでは紅茶は嗜好品だった。日常の中にはなかった。社交の場としてティーサロンを使い、そこで甘いものを食べながらいい香りの紅茶を飲み、情報交換に勤しんだわけだ。

 フレーバードティーとして加工された紅茶を飲むフランス人の流儀について知ろう。ミルクやレモンはどのようにみなされているのだろうか

 わかりやすい例として、フランス紅茶の老舗ブランド「マリアージュ・フレール」が出している本の写真を持ってきました。

マリアージュフレール『フランス流 紅茶芸術』より引用。

 砂糖なんていれんなミルクも特定製法の特定茶葉を飲むとき以外いれんなレモンは逝ってヨシとしている。過激だ。

 余談だけどレモンティーって実は日本とアメリカくらいでしか飲まれていないらしい。へー。

 オススメのフレーバードティーとかについては余談④に書いておくから、とりあえず今はフランスでは香りをつけた紅茶を無糖のストレートで飲むんだ、と思っておいてください。


5. まとめ

 今回はイギリスとフランスとに絞ったが、世界には様々な紅茶の楽しみ方がある。

 そんな紅茶にこだわりがあるキャラクターをロールするとして、この要素でどんな印象を与えたいだろうか? どの文化の中で、どのように紅茶に触れてきたと表現すべきだろうか? を考えるきっかけにしてほしい。

  • イギリス紅茶はミルクティーの文化

 多くの場合、一般的な紅茶のイメージのほとんどはイギリス紅茶のもの。

 イギリスの紅茶は日用品で、インド・ケニア紅茶を用いる。98%がミルクティーとして消費される

 ティータイムの文化があり、日がな一日様々な理由をつけて紅茶を飲んでいる。

 アールグレイ、アフタヌーンティー、スコーン、ファッジ、キャロットケーキ、サンドイッチ。

 

  • フランス紅茶はフレーバードティーの文化

 フランス紅茶は文化的に嗜好品だった。社交界で甘いものに合わせるため、スッキリとした紅茶をベースに華やかな香りをつけられた。

 抽出にはコットンフィルターを使い、それが渋さや雑味を吸収するため味わいが丸くまろやかになる。

 今でもフランス人の消費する紅茶の7割程度はフレーバードらしい。

 フレーバードティーのベースはセイロン、中国紅茶が多い。スッキリめで渋さが少なめなのが共通点。

 フレーバードティー、マカロン、カヌレ、無糖のストレート嗜好。

 どんな印象を与えたいかで、どちらの文化を軸足にするかを決めよう! 渋い紅茶をゴリゴリ飲むカコイイキャラにしたいならイギリスとか、甘い物大好きゆるふわカールの女の子にしたいならフランスとか、好きなお菓子から紅茶の流派を決めてもいい。日本で暮らしていてなんとなく紅茶を好きになったならたいていイギリス流派に近いと思う。

 英国紅茶文化を掘り下げてみたり、ロシアンティーとかの英仏以外を掘り下げてもいい。

 ここまでで7000字近くあるのに読んでくれた人がいるなら本当にありがとう。以下はロールのときの参考用に、今まで以上にマニアックなことを書いているので読まなくていいです。必要になったら読んでね。

 実際なんか紅茶飲んでみたい人は最下部までスクロールしてね。



6. 余談① クオリティシーズン

 クオリティシーズンとは、美味い茶が収穫できる時期の概念の総称だ。

 日本緑茶でいうなら「夏も近づく八十八夜」がそれにあたる。つまり、新茶ということだ。

 用語の話をするが、こんなものは感覚でわかってくれればいい。

ファーストフラッシュ:実質的には春に摘まれる茶葉のこと。

セカンドフラッシュ :実質的には夏に摘まれる茶葉のこと。

オータムナル    :秋摘みの茶葉のこと

クオリティ     :上記に該当しないが、クオリティシーズンに収穫された茶葉を示す。

 この辺の文言がある紅茶は新茶なんだなと思っておけばいい。そして各産地のクオリティシーズンについては画像を見てざっくりわかってほしい。

 以下インド紅茶のクオリティシーズンの茶葉の味わい等についてのメモ。セイロンはごめん、ルフナ以外語れるほど飲んでないから省略。

 中国種とかクローナルとかは余談③でちょっと話します。

■ダージリン

 全部味と香りが違う。1st2ndが高級で秋摘みはお手頃。シッキムやドアーズは地理的条件が似ているためクオリティシーズンも大体同じ。

ファースト:草原のような青々しい香り、力強い旨み、緑茶のような水色。

クローナルが花のような香りで有名。中国種なら爽快な緑の香り。

紅茶なのにほとんど発酵をさせないのが特徴。味わいが濃いめなのに爽快さ強いのがウリで、多少酸味のあるお茶請けとのペアリングがされる。レモンケーキとか、ベリー系タルトとか。

セカンド:フルーティーな香り、滋味深い味わい、ミネラル感

マスカテルフレーバーが売り言葉だが、本当にマスカテルがあるものは珍しいし高い。中国種に近いほどがマスカテルフレーバーを持ちやすい。クローナルは渋さが控えめで飲みやすい。ミルクティーにする場合も……といいつつ私はやんない。小麦菓子との相性がいい。

 オータムナル:穏やかなセカンド。品種香が一番わかりやすい、歯の甘さが目立つ、渋さは控えめ。

植物って勝手に成長するから、来季のファーストにセカンドの風味を残さないためにも収穫しないといけないらしい。単に「ダージリン」としかされていないものはたいていオータムナルかそれ以降のブレンド品という印象。

 ダージリンのファースト、セカンドのいいものはとにかく高価。オータムナルは高級ラインの茶葉でもお値段控えめ……でもセイロンティーの高級ラインまでは高まる。

 ざっくり、ファーストセカンドの高いものは3,000円/50g以上、オータムナルはその半分未満って感じ。

 マスカテルフレーバーって茶商が好き勝手説明してるけど、狭義ではもはや該当する茶葉ってかなり少ないらしい。ピュアチャイナまたは中国種に近いハイブリッド種で、ウンカの虫害にあっていて……みたいな。

 最近よく見かけるマスカテルフレーバーは広義のほうで、製茶の段階の火入れ工程で甘味と酸味をブーストし、渋みと香ばしさとを伸ばしたもの。本来のマスカテルはレトロ・マスカテルとか呼ばれてるらしくて……本当に品質の良い茶葉を上手に加工したロットが日本に入ってくることは少ないんだとか。この辺は信用できる人から話を聞いてね。

■アッサム

 アッサムはミルクティーがいいって言われるけど渋さに慣れてないと本当にそう。私はファーストはストレートでも飲めるけど、セカンドにはミルクを差しちゃう。オータムナルはあんまり見ない。

 アッサムには800以上の農園があるけど、日本に輸入販売されるクオリティのシングルオリジンティーを作れる農園は数えるほど。

ファースト:蜜芋のような香り、味わいやコクの割に渋さが控えめ。

ストレートでもミルクでもイケるアッサムの優等生。アッサムが飲みたいって人にはとりあえずこれを出す。

セカンド:枯れ葉のようなモルティ感、蜜芋のような香り、コク渋さ強め。

色も濃ければ味も濃い。アッサムのセカンドを人に紹介する時は「どすこい」という形容詞を使う。重厚。重く厚い。たっぷりとミルクを入れても、紅茶の風味が残る。チョコやキャラメル等めちゃ甘orコッテリ系とペアリングする。

7. 余談② 各産地の紅茶の価格

 ロールの参考としてもらうため、2025年現在の嗜好品としての紅茶のだいたいの価格をまとめておく。もちろん店や品質、ロットによって違うのであくまで参考値。そしてダージリンはピンキリにも程があるので最後に回した。

 まず、価格はおおよそ茶葉の形状によって違う。高級品は茶葉の形状が保たれがちで、リーズナブルな茶葉は砕かれていたり切られていたり……。どちらにも良し悪しはあるのだけど、茶葉の断面からは渋さや雑味が出やすいのでよいものは茶葉の形を保ったまま加工する傾向がある。

 「オレンジペコ」とか聞いたことあると思う。アレは、いいとこの茶葉を使ってなるべくそのまんまの形状で製茶してますよということだ。茶葉を裁断すると「ブロークンオレンジペコ」という等級になるのですぐわかる。

 等級の話が出てしまった。嫌々解説をすると、オレンジペコとかは使ってる茶葉がどこのものかを示す。ついでにどんな加工したどんな茶葉なのかもだいたい分かる。一部の説明がこれ。全部を説明するのは面倒い。

 FOPは新芽だけを使った茶葉だよということ。だからたいてい美味しい。

 そんで、ブロークン等か否かでだいぶ値段が変わるので、そんな形で記載してみた。

 その年のシングルオリジン(単一の農園で収穫された茶葉のこと)という前提だと、50gあたりの価格はざっくり以下の通り。

 参考までに、ティーカップ1杯150mlあたりに必要な茶葉は2~3gだ。50gあれば18~25杯、3~4リットル分の紅茶が飲めることになる。


ブロークンのアッサム、セイロン:700~1,500円くらい

ブロークンじゃないアッサム、セイロン:1,200円~2,500円くらい

 アッサムやセイロンはほとんどがブロークン、またはCTC製法で加工された茶葉の状態で見かける。つまりは茶葉が崩されている。元々崩す前提であれば茶摘みに機械を使うなどで人件費を減らし、茶葉の価格を抑えることができる。

 その恩恵を受けているのが上のほうの価格。専門店でもそれくらいの価格だ。

 一方で、デメリットを踏まえてでも茶葉を崩さずリリースされた商品も存在する。そういうものはやっぱり高いけど美味しいです。


ダージリン:ピンキリ

 言い訳をさせてほしい。詳しい話になって申し訳ない。

 農園は広大なので、クオリティシーズンに乗っかって収穫をやるにしても、どうしても時間がかかってしまう。そして、時間がかかると成長してしまい、茶の風味に大きく影響を与える。だから各農園は2,3日ごと、あるいは50kgごとくらいで区切って、ロットナンバーをつけている。

 つまり、ロットナンバーが1番の茶葉があれば、それは正真正銘その年にその農園で一番初めに摘まれた茶葉グループということになる。

 そして、価格はロットナンバーごとに変わるのだ……。

 また、茶葉の加工が上手い農園、特定の区画だけ美味しい茶葉が摘める農園、農園がスペシャルと箔を押したロットなど、様々な価格高騰要因があり、値段は安定しない。

 ファーストもそうだが、特にセカンドは品種による差も大きい。なぜなら、「マスカテルフレーバー」というやつが中国種よりの品種だと出やすく、アッサム種系は花の香りに寄ってしまうから。市場はマスカテルを求めている。資本主義ですね。

 まとめんの無理です。がんばるけど。

・FF 3,000〜5000円くらい

 ルピシアでも3,000円から。たいてい5,000円以内くらいに収まる。

・FF 有名農園のロットナンバー若め 6,000〜9,000

 青天井。マリフレの3万円のやつとか、F&Mの2万円のやつとかもこの区分。25gとか30g単位での販売が多く、値段はおおよそ嘘をつかない。

・SF 2,000~4000円くらい

・SF 有名農園、銘あり、スペシャルティー等 4,000~12,000円

 全体的にファーストより値段は落ち着きがちだが、中国種系のセカンドはどうしても値段が高止まりする。マスカテルだのMoondropだの、スペシャルティーもどんどん出てくる。気を抜くと茶棚がセカンドで埋まる。

 ダージリンらしいダージリンとはSFのことなので、仕方のないことではある。

・秋 1,500円~3,500円くらい

 シングルオリジンとしてオータムナルを出す農園は少ないが、出すようなとこは自信のあるとこということでもある。セカンドの残り香のある渋さが落ち着いた紅茶なので、試したい人にとってはお手頃価格。


 学生PCがダージリン狂だったらそいつは金持ちだからタカってゲーセンに行こう。帰りでハンバーガーも奢らせよう。

8. 余談③ チャノキの変種や品種の話

 チャノキは中国が原産と言われているが、実は野生のチャノキはインドとカンボジアにも存在していた。らしい。カンボジアは私も最近知ったけど眉唾。

 それらは変種と呼ばれ、カメリア・シネンシス(var. assamica、アッサム種)、(var. cambodia、カンボジア種)として表現される。

 ちなみに、カメリアが「ツバキ属」、シネンシスが「中国の」という意味らしい。最初に見つかったのが中国だったので、こんな名前になったらしい。

 それぞれの変種には特徴がある。

  • 中国種:背が低い。葉も小さい。日本のチャノキはだいたいこれ。

  • アッサム種:でっかい。葉も大きい。

  • カンボジア種:ごめん知らない。めったに見ない。本当にあってる?

 ともあれ、紅茶に使われるのはほとんど中国種かアッサム種か……なんだけど、これは変種の話。

 ここからは品種の話。 

 結論から言えば、チャノキもコメと同じで品種改良が行われている。それ専用の研究所の人たちが頑張っている。中国種とアッサム種をかけ合わせたり、有性生殖を行った結果の変異だったりする。コメで言えば「コシヒカリ」、チャノキでいえば「やぶきた」みたいなやつが無数にあって……。

 ダージリンで有名なのは「AV2」「P312」「B157」等。私がスッと出せるのはこれくらい。29種はあるらしい

 で、重要なのは、純粋な中国種、中国種よりの品種改良種、アッサム種寄りの品種改良種、アッサム種の4つに分類されていること。

 ダージリン紅茶のすんごいがんばってる農園さんたちは、そのへんを完全に区別して、特定の品種だけでロットを仕上げていたりする。もちろん複数品種をブレンドして紅茶としての完成度を高めていたりもする。

 買う側がそういうのを区別するために、China(CH)、Clonal(CL)という言葉がある。

 Chinaは文字通りチャイナ、中国種あるいはそれに近い品種改良種の茶葉が中心のロットであることを示す。

 Clonalはアッサム種またはそれに近い品種改良種の茶葉が中心のロットであることを示す。

 なぜクローナル? というのは、チャノキの増やし方がクローンを増やすように増やしているからだ。要するに接ぎ木でクローン化している。ソメイヨシノと同じ。

 クローナルで増やすメリットも大きい。遺伝子が同じなのだから、風味が統一される、そして成長速度が同一になる。同じ速度で育ち、同じタイミングで収穫すればよくなる。管理がとても楽だ。それに、風味が統一されているから加工・仕上げもしやすい。

 受粉等の有性生殖になると遺伝子が変わるので、育つ速度も味も香りも全然別物になる。

 そんなわけで、品種改良種の多くはクローナルと括られている(中国種寄りの品種改良種はその辺扱いが曖昧なんだけどね)。

 セイロンでは品種の話って聞いたことない。中国種が植わってるらしいけど……品種改良とかしてないんですかね? ごめんなさい。わかんないです。

 各品種の特徴はダージリンでも書いた通りなんだけど、CHは果物香が、CLは花香が出やすいイメージ。他にもCHはパンチがどうとかCLは渋さが控えめとかあるんだけど割愛。飲んで覚える部分。

9. 余談④オススメの紅茶、福袋情報

 この章ではノンフレーバーのオススメ、フレーバードのオススメを紹介する。各店舗紹介に福袋の有無を記載するけど、多いので別でまとめました

■ノンフレーバー

 まず、美味しいシングルオリジンが飲める店をいくつか紹介する。

Gclef(ジークレフ)

 手頃で適量の茶葉を買えるいい店。ここのダージリンとルフナは本当に美味しいし、冬春ごろにリリースされる冬摘みのニルギリには毎年感動している。

 ただし、仕入れ担当の舌が合格を出した商品しか仕入れないため、今年はダージリンがないかもしれないとか言われていた。結局1農園2ロットしか入らなかった(去年は3農園8ロットくらいあったよね?)。

 セイロンにも強く、クオリティのスペシャルティーはちゃんと美味しい。ここのルフナが好きだ。

 福袋もある。紅茶わかんないならここのを試してみよう

リーフルダージリンハウス

 ダージリンの高級品を探したいならここだけど、初心者が見るような店じゃない。各季節ごとのチャイナとクローナルとが出す特徴の違いくらいはわかってないとどうしようもない。

 いろんな農園の、いろんなロットのダージリンが揃っている。アッサムやセイロン、フレーバードティー(アロマティー)もある。

 ただ、ほんっと~に美味しいとされるダージリンを試したいなら、マーガレッツホープ農園orキャッスルトン農園の、中国種のダージリンを買ってみるといいかも。

 福袋はあるけど価格もすごい。お金に糸目をつけないなら手を出そう。私も続くよ。

ChaTea紅茶教室

 イギリス文化とか紅茶の歴史とかを教えている人たちが、茶菓子や茶葉も売っている。品質はものによるんだけど、総じてコスパがいい! 安くて美味しい紅茶がほしいなら、この店を覗いてみるのがいい。

 今年だとここのキャッスルトンのセカンドは良かった。チャイナのほう。去年のプッタボンのファーストとかもかなり美味しかった覚えがある。

 なにより特筆すべきは、ここのスコーン美味しすぎ!! ということ。たまに茶菓子と紅茶の通販をやっているので、気になったら試してください。

 福袋はない。

 あとは使ったことないけどT-breakさんとか、TeaClanさんとかが気になってる。T-breakさんは福袋買ったけど、TeaClanさんはいまだに2022年の紅茶とか売ってるのが気になるんだよな……。

 続いて、ちょっと別枠でシングルオリジンじゃない美味しい紅茶の紹介。

フォートナム&メイソン

 王室御用達の老舗、高級紅茶の代名詞……なんて言われてるけど、実はそんなに高いなって感じもしない。英国紅茶が日用品だから……という視線を持てば、まぁまぁ高い気もするけど。

 F&Mの美味しい紅茶といえば、アールグレイクラシックと、アッサムTGFOP

 アールグレイクラシックは、飲んだ瞬間この世のアールグレイは全員これになりたいんだと確信した。上品でお淑やか。茶全体の調和が取れており最高。

 アッサムTGFOPは、私が紅茶わかんない時期ずっとこれを飲んでいたんですけど、今になって思えばクオリティ高すぎ。いろんなアッサムをブレンドして年中この味を保っている。ストレートでもミルクティーでも行ける。

 あとは日本では取り扱いがないけどバニラティーもすごい。ブレンダーの技巧が光る一品です。クイーン・アンとかも美味しい、ストレート向け。

 福袋はあるにはあるけど中身固定&宅配なし。

リントンズ

 記事中にも出した、英国の日用茶メーカー。商品数は数えるほどしかない。

 リントンズゴールドというのがすごい。味わいやコクの調整が絶妙。茶菓子と一緒に。大量に煮出して1日中飲もう。

 福袋あるけど売り切れてるんじゃないかな。3年分くらいの紅茶と、茶菓子や英国式ジョークが届く。

■フレーバード

 基本的にはフランス紅茶の紹介になります。まずはコットンフィルターを買ってね。

マリアージュ・フレール

 高級紅茶の代名詞。商品1,000個近くあって選べないで有名。

 オススメはアールグレイ・インペリアルヒマラヤンピーチボレロベランダモンターニュ・ドールあたり。

 使い捨てのコットンフィルターが便利。

 福袋はあるけどオススメしない。

ニナス

 安くて美味しいフランス紅茶。マリフレが高いって人には試してほしい!

 オススメはテデアンジュがとにかく美味しい。その他はジョゼフィーヌボナパルトジュテームイヴニナスブレンドあたり。

 おためしアソートが手頃だけど、テデアンジュが入ってないんだよな……。

 福袋あり。ロイヤルボックスがかなり安くなるから、気になるなら手を出してもいい。

デンメア

 相棒とコラボしてるオーストリア紅茶の店。

 オススメはザッハブレンド、チョコレートトリュフ。

 福袋あり。たいていザッハブレンド入ってるし補給がてら買ってもいいかも。

 以上! なんかあれば直接聞いてください。間違ってたらごめんなさい、直します。ここまで読んでくれてありがとう。文字数