楽しみにしていた、映画『Pearl パール』を観た。前作『X エックス』の前日譚である本作は、殺人鬼パールの若き日を描いている。レトロなレタリングのキャスト名がクレジットされ、ミア・ゴスのノスタルジーなファッションと甘い色合いの画面に酔いしれる。これがスラッシャー映画の始まりにしては、何とも夢心地でときめくような可愛らしさで溢れている。
時は1918年。第一次世界大戦が終わり、戦地に赴いた夫を待ちながら農場で暮らすパール。父親の介護と厳格な母親に支配され、仕事に追われる日々。そんな彼女の密かな楽しみは映画だ。そしていつか映画スターになることを夢見る、ごくありふれた女の子なのだ。
永遠に続くような黄金色のトウモロコシ畑に沿い、自転車を町へ走らせるパール。これは『オズの魔法使い』のオマージュらしい。確かに色使いがファンタジー映画を彷彿させるような、優しくて鮮やかな風合いだ。案山子さんまで現れる(私は『オズの魔法使い』で案山子さんが一番好きだった)。自意識を拗らせたパールは、現実を突きつけられ、その秘めていた残虐性を露にしていく。
時代的に贅沢も出来ないだろうし、ましてや移民だし、夫は介護が必要な身。母親にも同情の余地はあるけれど、娘をコントロールしようと支配するのはいただけない。厳格に育てられてしまった所以なのか、パールは鬱屈した心を癒せていたものまで奪われて否定され、完全にプッツンしてしまう。
義妹のミッツィへ独白した言葉が、パールの本心なのだと思う。現実は『夢の工場』のようなハリウッド映画じゃないのよ、という皮肉がありながらも往年のハリウッド映画風にしているところが毒々しい。残虐シーンは『X エックス』の方が個人的には凄かったので、こちらは割と平常心で観られた気がする。ミア・ゴスの顔芸(と言って良いのかしら)がハイレベルで、無垢で夢見がちな女の子の表情から、完全に振り切れてしまった後のサイコパスな作り笑顔と表情筋がゾッとさせられた。