ルシア・ベルリン

ARARE.
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彼女を知ったのはほんの偶然だった。ぼんやりスクロールしていた画面に突如現れた女性。煙草をもつ仕草とどこか愁いを帯び微笑みを浮かべる表情に、心を鷲掴みされたのだ。映画が何かのワンシーンなのかと思う程に完璧な美しさだった。その佇まいに目が離せなかった。

それは文庫本の表紙であり、『掃除婦のための手引書』とあったためにハウスキーピングの指南書なのかしら? などと推察していたけれど、全然そうじゃなくて。表紙の印象的な女性が作家自身ということを知り、ますます興味が湧き、手に取ってみた。

海外作品はいくつか読んできたけれど、どの作家とも違っていて、何と言うか悲惨な状況の中にあっても(彼女の作品は私小説なのだと思う)全くそれを感じさせないような乾いた空気感があるのだ。自分の状況を他人事のように俯瞰していて、諦念の想いを抱きながらもウィットに富み、ざっくばらんな潔さみたいなのがある。読み進めていくと、読者はある程度ストーリーの最終を予測するけれど、その予測がぱっさりと予期せぬ展開を迎えて、しばし呆然とさせられてしまう。一作品読み終え、しばらくその読後感を味わいたくなる。余韻に浸りながら、あれこれと想像を巡らせる時間が欲しくなる感じ。

メキシコやエルパソの乾いた景色や色とりどり(であろう)街並みが、ありありと浮かびかがってくるようだった。

@godhelpthegirl
テンション低めのオルタナティブ人間。穏やかでゆるゆるとした場所や時間が好物。